2019/03/28の話:【トポロジー】ちょっとした基本群を計算してみる

【2019/03/10の話:基本群とは?】←関連する話

【2019/03/13の話:ループを使わない基本群の解釈】←関連する話

■基本群の計算

空間 $ M $ が与えられたとき, $ M $ の基本群とは, $ M $ の中のループの性質や互いの関係性を記述したものです.

この基本群は幾何的な直観(いわゆる図を使って)計算される事もあれば,その代数的性質(ファン・カンペンの定理)などを使うこともあります.

今回は幾何的な直観によって基本群を計算する際の「トポロジー的」考え方を少し紹介します.

■簡単な空間の基本群

まずは次のような空間 $ M $ を考えてみましょう.

この図は3次元の空間に2つの無限に延びた筒上の「穴」があいているものです.仮にこの3次元空間の中の図形を移動させるとしたら,この「穴」は避けて通らなければなりません.

さて,空間 $ M $ の中に基点 $ x $ を一つ設けます.基本群の計算をするときは,この基点から始まり基点に終わるようなループを考えます.まず,この空間の中で「穴」をまたがないようなループ $ \alpha $ は1点に連続的に変形させることができます.そのようなループは基本群では「1点と同じもの」とみなし,
\begin{eqnarray}
\alpha\sim x
\end{eqnarray}
となります.

この空間の情報を反映するようなループは,2つの筒状の穴をまたぐようなループ $ \beta,\gamma $ です.

これらは1点に変形できないようなものであり,またこの空間内の任意のループは $ \beta,\gamma $ で表現することができます.

これらのループ $ \beta,\gamma $ の間にはどんな関係(性質)が成り立つでしょうか? 

まず, $ \beta $ と $ \gamma $ の間に交換法則が成り立つかどうか確かめてみます.

すると, $ \beta\gamma $ と $ \gamma\beta $ は連続的な変形によってうつりあうことができません.したがって $ \beta\gamma $ と $ \gamma\beta $ は基本群の中で同じものとは見なされません.つまり
\begin{eqnarray}
\beta\gamma\neq \gamma\beta\in\pi\f 1(M)
\end{eqnarray}
です.少なくとも $ \gamma $ と $ \beta $ には「交換関係」がないことがわかります.実は交換法則は基本群の中では「レアな」ものなのです(トーラスの基本群などはそうなっている).

実はこの空間 $ M $ は,円周を2つ繋ぎ合わせたような空間 $ S\ef 1\vee S\ef 1 $ と「ホモトピー同値」です.

2つの空間の中では,図形の「連続変形の仕方(ホモトピー)」が(見かけは異なるが)同一のものとなるのです.例えば $ M $ 内のある(円周とは限らない)図形が一点に連続変形できるとすると,それに対応する $ S\ef 1\vee S\ef 1 $ 内の図形も一点に連続変形できてしまいます.基本群は特に空間上のループの連続変形の仕方を見るものなので, $ M $ と $ S\ef 1\vee S\ef 1 $ がホモトピー同値であるという事実から,基本群は同一になります.そして $ S\ef 1\vee S\ef 1 $ の基本群は
\begin{eqnarray}
\pi\f 1(S\ef 1\vee S\ef 1)=\ck{\beta,\gamma\vl \es}
\end{eqnarray}
となります.右辺の群は, $ \beta $ と $ \gamma $ の単項式 $ \beta\ef n\gamma\ef m\beta\ef l\gamma\ef p\cdots $ からなるもので, $ \beta $ と $ \gamma $ の関係式が $ \es $ ,つまり何もないことを意味しています.群の言葉で,これは $ \beta $ と $ \gamma $ で生成される自由群といいます.これがすなわち $ \pi\f 1(M) $ ということになります.

■ちょっと難しい例

次に,以下の空間 $ N $ を考えてみましょう.

$ N $ は3次元空間の中に,またしても筒上の穴があるのですが,それが途中で絡まっているような空間です.

この空間の基本群を求めるのは少し難しくなりますが,やってみましょう.

まず,基点 $ x $ を $ N $ に設定します. $ N $ の中で1点に連続変形できないループとして $ \alpha,\beta,\gamma $ を上図のように設定します.図において $ \beta $ が2つありますが,これらのループは連続的にうつり合うことがすぐに分かるため,基本群の中では同じものを表すからです.おなじことを $ \alpha $ と $ \gamma $ に対してやろうとすると,筒状の「穴」が邪魔をしてなかなか $ \alpha $ と $ \gamma $ を連続変形で重ね合わせることができません.

$ \alpha,\beta,\gamma $ は互いに異なるループになっているかどうかはまだわかりません.ぱっと見では, $ \alpha $ と $ \beta $ が連続変形でうつりあうかどうかわかりません. $ \gamma $ にしてもそうです.したがって基本群を求めるときは,これらループの間の関係を調べることが必要になります.何の関係もなければ,先ほどのように
\begin{eqnarray}
\pi\f 1(N)=\ck{\alpha,\beta,\gamma\vl \es}
\end{eqnarray}
となってしまいます.

では実際に調べてみましょう.まず, $ \alpha,\beta,\gamma $ の積 $ \gamma\inv\beta\alpha $ は $ \beta $ に連続変形することができます:

これによって $ \alpha,\beta,\gamma $ の間に
\begin{eqnarray}
\gamma\inv\beta\alpha =\beta
\end{eqnarray}
という関係があることがわかります.またこれと同じ事を別な場所で行うこともできます.

これも同様の考え方によって,同じような関係式を得ることができます.しかし見てわかるように,図を使って計算する場合,結び目をほどくような複雑な考え方をしなければならなくなっています.

そこで,もう少し「トポロジー的」な発想をすることにしましょう.

■基点を広げてみる

基本群を考える際,ループは基点から始まり基点に終わるものとしtえ計算をします.結合の演算もこの点を基準にして行われます.

しかし,図を使って基本群のループの関係式を考えるとき,この基点を「小さい点」とする必要はありません.どういうことか説明してみます.

以下の2つの図を見てください.

一方は点から始まり点に終わるループです.そして一方はある平面から始まり平面に終わる曲線分です.

実は基本群のループを考えるのと,上の平面に張り付いた曲線を考えるのは同じ事になっています.トポロジー的に考えると,平面に端点のある曲線というのは,この平面を連続的に縮小することによって,ある一点を端点とするループと同じになるからです.

つまり,基本群計算におけるループの間の関係式を導出するとき,わざわざ一点からループが始まる図を使って計算する必要はなく,ときどきに応じて,基点の形を「1点に連続変形できる図形」に変えてもいいことになります.

先ほどの空間 $ N $ を例にとるとわかりやすいかもしれません. $ N $ の中の穴に巻き付いたループ $ \alpha,\beta,\gamma $ の間の関係式を求めるのは,基点を「点」として考えると煩わしいものでした.

しかし,この基点を平面に変えてみましょう.

すると, $ \alpha,\beta,\gamma $ は次のようになります.

この平面(基準面とでもいいましょう)はいくらでも大きく書いてもいいのです.そして以下の2つのループ $ x,y $ が連続的にうつり合う,つまり基本群の中で $ x=y $ となるという事実は,基点を面にして考えると,

となります.

また,基本群の曲線の連結は次のように行われます.

平面を縮小してしまえば,この連結操作は,基点を「点として」扱う場合と同じことであるということがわかると思います.

そして,先ほどわかりづらかった $ \gamma\inv\beta\alpha =\beta $ という関係式を,この面を使って考えるとすんなり行きます:

したがって,このように絡まった穴があいたような空間の基本群を計算するときは,次のような図を書くだけで事足ります.

穴の形状も太さを持ったものとして描く必要はないので,単なる線として表しています.この絡まった穴の下側に,基点(平面)が存在していると考えているのです.

実際にこの空間の基本群を最後まで計算してみましょう.そのためには,この「結び目」のクロスしている部分に存在する基本群のループの間の関係式をすべて求める必要があります.

連続変形によってうつり合うことが明白なループは同じものとして扱っています.この空間の任意のループは $ \alpha,\beta\gamma $ によって表すことができることが分かります.また,各クロス部分に対して次のように3つの式が出来上がります.

これらの式を簡単化していきましょう.まず式(2) $ \gamma\inv\beta\alpha=\beta $ の両辺に $ \alpha\inv\beta\inv $ を掛けると
\begin{eqnarray}
\gamma\inv=\beta\alpha\inv\beta\inv
\end{eqnarray}
となり,両辺逆元を取ると
\begin{eqnarray}
(\gamma\inv)\inv&=&(\beta\alpha\inv\beta\inv)\inv\kg
\gamma&=&\beta\alpha\beta\inv
\end{eqnarray}
となります.これを(1),(3)に代入すると
\begin{eqnarray}
(1)に代入&:&\alpha\inv\beta\alpha = \beta\alpha\beta\inv \kg
(3)に代入&:&\beta\inv \alpha\beta\alpha\beta\inv =\alpha
\end{eqnarray}
となります.この2つの式はどちらも次の形に変形することができます.
\begin{eqnarray}
\alpha\beta\alpha =\beta\alpha\beta
\end{eqnarray}
以上の計算によって,まず $ \gamma $ は $ \alpha $ と $ \beta $ によって表すことが分かった( $ \gamma=\alpha\inv\beta\alpha $ )ため,この空間内の任意のループは $ \alpha,\beta $ だけで表せることが分かりました.また, $ \alpha $ と $ \beta $ の間には
\begin{eqnarray}
\alpha\beta\alpha=\beta\alpha\beta
\end{eqnarray}
という関係があることも分かります.よって基本群 $ \pi\f 1(N) $ は
\begin{eqnarray}
\pi\f 1(N)=\ck{\alpha,\beta\vl \alpha\beta\alpha=\beta\alpha\beta}
\end{eqnarray}
となります.

基本群の表示が具体的に求まれば,空間内のループはすべて代数的に計算することができるようになります.例えば以下のような複雑に絡まったループを考えてみます.

このループを式で表すと,
\begin{eqnarray}
\alpha \beta^2\gamma^{-1}\alpha ^{-2}\gamma^2
\end{eqnarray}
となります.これは $ N $ の基本群の元としての表示ですから,さきほどの $ \gamma=\alpha\inv\beta\alpha $ や $ \alpha\beta\alpha=\beta\alpha\beta $ という関係式を使って変形することができます.すると,次のようになります.

\begin{eqnarray}
\alpha \beta^2\gamma^{-1}\alpha ^{-2}\gamma^2&=&\alpha \beta^2(\alpha ^{-1}\beta\alpha )^{-1}\alpha ^{-2}(\alpha ^{-1}\beta\alpha )^2\kg
&=&\alpha \beta^2\alpha ^{-1}\beta^{-1}\alpha \alpha ^{-2}\alpha ^{-1}\beta^2\alpha \kg
&=&\alpha \beta^2\alpha ^{-1}\beta^{-1}\alpha ^{-2}\beta^2\alpha \kg
&=&\alpha \beta^2(\alpha ^{-1}\beta^{-1}\alpha ^{-1})\alpha ^{-1}\beta^2\alpha \kg
&=&\alpha \beta^2(\beta^{-1}\alpha ^{-1}\beta^{-1})\alpha ^{-1}\beta^2\alpha \kg
&=&\alpha \beta\alpha ^{-1}\beta^{-1}\alpha ^{-1}\beta^2\alpha \kg
&=&\alpha \beta(\alpha ^{-1}\beta^{-1}\alpha ^{-1})\beta^2\alpha \kg
&=&\alpha \beta(\beta^{-1}\alpha ^{-1}\beta^{-1})\beta^2\alpha \kg
&=&\beta\alpha
\end{eqnarray}
したがって,基本群の要素として先程のループは $ \beta\alpha $ と同じものになること,つまり $ \beta\alpha $ に連続変形できることが分かりました.

実は,このように絡まった穴が空いている空間 $ N $ の基本群が
\begin{eqnarray}
\pi\f 1(N)\not\cong\jb x
\end{eqnarray}
とならないことから,以下のような結び目が「ほどけない」ことがわかるのです.

別な例として,以下のような形状の穴が開いた空間 $ N $ の基本群を計算してみましょう.

これら6つのクロス部分にループを配置し,それぞれの関係式を求めると次のようになります.

この6つの式は次のように簡単化していくことができます:まず(1) $x=z\inv yz$ を(2)に代入すると
\begin{eqnarray}
(z\inv yz)\inv z(z\inv yz)&=&u\kg
z\inv y\inv zzz\inv yz&=&u\kg
z\inv y\inv zyz&=&u
\end{eqnarray}
となります.さらにこの式の $u$ と $x=z\inv yz$ を(3)に代入することで
\begin{eqnarray}
(z\inv y\inv zyz)\inv (z\inv yz)(z\inv y\inv zyz)&=&z\kg
z\inv y\inv z\inv yzz\inv yzz\inv y\inv zyz&=&z\kg
z\inv y\inv z\inv yzyz&=&z\kg
yzy&=&zyz
\end{eqnarray}
が得られます.この関係式により, $u=z\inv y\inv zyz=z\inv y\inv yzy=y$ となります.つまり $u=y$ です.また(4)により $v=u\inv wu=y\inv wy$ なので,この$w$を(5)に代入すると
\begin{eqnarray}
w\inv (y\inv wy)w&=&y\kg
ywy&=&wyw
\end{eqnarray}
となります. $w$ を(6)に代入しても同じ式が得られます.したがって最初の6つの式は,次のように簡単化されます.
\begin{eqnarray}
yzy&=&zyz\kg
ywy&=&wyw\kg
u&=&y\kg
x&=&z\inv yz\kg
v&=&y\inv wy
\end{eqnarray}
このうち, $x,v,u$ は $y,w,z$ で表されています.したがって基本群は次のようになります.
\begin{eqnarray}
\pi\f 1(N)=\ck{y,z,w\vl yzy=zyz,\; ywy=wyw}
\end{eqnarray}
つまり,空間$N$内のループはすべて$y,z,w$で表され,これらの間には $yzy=zyz,\; ywy=wyw$ という関係があることになります.

基本群の計算は一般に非常に難しいものなので,以上のような結び目補空間に対しては計算がより簡単な,「ねじれホモロジー」や「多項式不変量」などを用いることが多いです.

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