2019/03/13の話:ループを使わない基本群の解釈

■ループを使わない基本群の意味(大雑把に)

【2019/03/10の話:基本群とは】←関連する話

群論を勉強したことのある人は、ここで一つの疑問を呈するかもしれません。群の例として、立方体の回転や反転な種の「変換」を表すものを多く取り扱ったことと思います。

群は「変換」としての意味が大きいのです。与えられた群を線形空間の変換として解釈することにより「表現」という概念が得られたりもします。

むろん、自然な変換としての意味を持たない(もしくは見えない)ような群もあります。

では基本群はどうでしょうか? 基本群はループの集合に演算を入れたものです。この群が何かの変換になっているとは考えずらいと思います。

しかし、実は基本群は普遍被覆空間と呼ばれる空間の変換を表すものと解釈することができるのです。そのことについてちょっと説明したい思います。

そのために、空間 $ M $ の「被覆空間」とは何かを説明しなければなりません。それは, $ M $ がのコピーが「局所的に」重なったような空間のことを指します.


【被覆例1:円周】

言葉では伝わりにくいものがあるので、少し例を挙げましょう。例えば円周 $ S\ef 1 $ を考えてみます。 $ S\ef 1 $ の被覆として以下のバネのようなものが考えられます。

このバネは $ S\ef 1 $ の局所的な部分だけを切り取ると、その部分のコピーが連なったような空間になっています。そしてこのバネは上下に無限に延びているようなものであり、空間としては $ \rea\ef 1 $ と同じものになっています。

よって $ \rea\ef 1 $ は $ S\ef 1 $ の被覆になっています。


【被覆例2:トーラス】

トーラスの被覆としては、無限に延びる筒が考えられます。この筒も、トーラスの局所的な部分だけを切り取ると、その部分のコピーがいくつも重なった形をしています。

また平面 $ \rea\ef 2 $ もトーラスの被覆になっています。




■普遍被覆空間

次に,普遍被覆空間について説明します. $ M $ の普遍被覆空間というのは, $ M $ の被覆空間の中で普遍性を満たすもの…という説明をしてもしょうがないので,別の説明をします.

$ M $ の被覆空間というものは一般にたくさん存在するわけですが,それらを仮に \begin{eqnarray}
M\f 1,M\f 2,M\f 3,\ldots
\end{eqnarray}としましょう.普遍被覆空間 $ \tilde M $ とは, $ M $ の被覆空間をすべて被覆してしまうようなものです.つまり, $ \tilde M $ は $ M\f 1,M\f 2,M\f 3,\ldots $ のすべての被覆空間になっているような空間です.いわば, $ M $ を被覆する空間の中で頂点に立っているようなものです.

本題ですが,空間 $ M $ が与えられたときに,その普遍被覆空間 $ \tilde M $ は $ M $ のコピーがたくさんあるような空間になっており,局所的には $ M $ と同じものがたくさんあります.

$ M $ に曲線を配置すると,それに対応する $ \tilde M $ の曲線を考えることができます.そのような曲線は $ \tilde M $ 内にたくさん存在します.

同じように $ M $ 上のある点を基点とするようなループも $ \tilde M $ 内に考えることができます.いま $ M $ の例としてトーラス $ T\ef 2 $ を持ってきます. $ T\ef 2 $ の普遍被覆空間は $ \rea\ef 2 $ です.まずトーラス上に「一点に連続変形できるループ」を取ってきます.すると $ \tilde T\ef 2=\rea\ef 2 $ 上に,それに対応する閉曲線がたくさん現れます.

では次に,「一点に連続変形できないループ」を取るとどうなるでしょう.今度は $ \rea\ef 2 $ に現れる曲線は閉曲線ではなくなっています.

したがって,一点に変形できないループは,普遍被覆空間において, $ M $ のコピーから別の $ M $ のコピーへ移動するような「道」を表していることがわかります.図を見ると,一つのループが描く $ \tilde M $ 内の道はまるで「 $ \rea\ef 2 $ の平行移動」を表しているような感じがします.

実は,基本群のループというのは,普遍被覆空間において平行移動(正確には被覆変換と呼ぶ)を表しているのです.いまの $ T\ef 2 $ の例で言えば,筒方向に一周するようなループ $ \gamma $ は,普遍被覆 $ \tilde T\ef 2=\rea\ef 2 $ において「全体を一段上に上げる」という平行移動を表しています.

一般の空間 $ M $ に対してもこのことは成り立ちます. $ M $ 内の「1点に連続変形できないループ」は $ \tilde M $ において, $ M $ のコピーから別の $ M $ のコピーへ移動する道を表し,そしてそれがそのまま $ M $ 全体の変換として解釈されます.

また, $ M $ 内の「1点に連続変形できるループ」は $ \tilde M $ において閉曲線として現れ,それが表す変換は恒等変換(動かない変換)です.

このように $ M $ の基本群のループは, $ M $ の普遍被覆空間 $ \tilde M $ の被覆変換と呼ばれる変換と「一対一に対応」します.また被覆変換は合成によって群を成し,それは基本群と同一のものとなります.すなわち基本群は普遍被覆空間の被覆変換群として解釈することができるのです.\begin{eqnarray}
\pi\f 1(M)\cong \jb{f:\tilde M\to\tilde M\vl f:被覆変換}
\end{eqnarray}被覆空間や普遍被覆などの定義には,ループという言葉は一切使っていません.したがって基本群はループの言葉を使わずに解釈することもできます.

注意:一般の空間に対しても成り立つと言いましたが、正確にいうと「普遍被覆が存在するような弧状連結ハウスドルフ空間」に対して成り立ちます。ただ、普通「空間」と聞いて一般の人たちが思い浮かべるものは、どんなにぐにゃぐにゃしていても、普遍被覆が存在するような弧状連結ハウスドルフ空間になっていることでしょう。ちなみに普遍被覆が存在しない位相空間としては、\begin{eqnarray}\rea\ef 2\setminus\braces{\paren{\frac 1n,0}\biggvl n=1,2,3,4,\ldots}\end{eqnarray}などがあります。

【例1:クラインの壺】

クラインの壺 $ K $ は $ \rea\ef 2 $ を普遍被覆として持ちます(トーラスのときとは「被覆の仕方」が若干ことなり,被覆変換も少し違う).そして,その被覆に対する被覆変換は,次のような $ f,g $ の組み合わせによって得られます.

これらの $ f,g $ は関係式
\begin{eqnarray}
f\circ g=g\circ f\inv
\end{eqnarray}
を満たしています.したがって,被覆変換群は
\begin{eqnarray}
\ck{f,g\vl f\circ g=g\circ f\inv }
\end{eqnarray}
となり,これに伴い基本群も
\begin{eqnarray}
\pi\f 1(M)=\ck{\alpha,\beta\vl \alpha\beta=\beta\alpha\inv }
\end{eqnarray}
となります. $ \alpha $ と $ \beta $ をループと解釈したとき,被覆変換 $ f,g $ に対応するのは上図の $K$ 上に示しています.


【例2:射影平面】

射影平面 $ \mathbb{RP}\ef 2 $  (メビウスの帯に円板で蓋をしたもの)の普遍被覆空間は2次元球面 $ S\ef 2 $ になり,その被覆変換は球面上の点を中心に対して反対の位置に持っていく変換です.

それを $ f $ とすると,この $ f $ は2回合成すると恒等写像になります.つまり
\begin{eqnarray}
f\circ f={\rm id}_{S\ef 2}
\end{eqnarray}
となります.よって被覆変換群は
\begin{eqnarray}
\ck{f\vl f\circ f={\rm id}\f{S\ef 2}}\cong\integ/2\integ
\end{eqnarray}
となり,したがって $ \mathbb{RP}\ef 2 $ の基本群は
\begin{eqnarray}
\pi\f 1(\mathbb{RP}\ef 2)\cong\integ/2\integ
\end{eqnarray}
となります.

以上のように基本群は,普遍被覆の変換として見ることができます.

以上の話は数学的にはかなり大雑把な話になっています.この話の厳密なことも次に書こうと思います.

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