2019/03/10の話:基本群とは?

基本群というのは球面やトーラスといった2次元曲面や,レンズ空間といった3次元空間などの位相空間に対して定義されるものです.簡単に言うと,空間の種数(穴の数)や絡み具合を表した群です.

空間の形状情報を反映する群は他に「(ねじれ)ホモロジー群」などがありますが,このような群の中で基本群は空間の形状の情報を強く反映しています(特に低次元トポロジーでは主役になる).

基本群の考え方は次のようになっています.ある空間(1次元・2次元のものも含めてこう呼ぶ) $ M $ が与えられたとき, $ M $ の形状を調べるために, $M$ の中に存在するループを考えます.

あるループは,「 $ M $ の中で」連続的に変形させることによって1点にまで変形できてしまいます.またあるループは $ M $ の穴に引っかかり1点に変形できません.

このようなループの情報を得ることによって, $ M $ の形状を把握しようと言うのが基本群の考え方です.すなわち基本群は空間内のループを集めた集合(に代数構造が入ったもの)なのです.また,基本群の中では,連続的に変形させて移りあうことのできるループは同じものとみなします.

例えば2次元の球面上では,どんなループを配置しても,そのループは1点に回収できます.これによって2次元球面は「穴」がないものだと言うことがわかります.しかし2次元トーラス上では1点に回収できないループが存在します.

このように基本群は,空間の形状を調べるのに役立ちます.ただ,この例では基本群の意義が見えにくいかもしれません.なぜなら球面やトーラスなどは,別にループなど配置しなくてもその形状はわかるからです.

しかしトポロジーにおいては,球面やトーラスがこのように「わかりやすい形状」として現れるとは限りません.これらの球面・トーラスの図は,「3次元ユークリッド空間の中に存在したとき」の図です.トポロジーでは,これらの空間が複雑に変形した状態で現れることもありますし,さらにはユークリッド空間の中に現れてくれるとも限りません(その場合の球面やトーラスは図としてかけるものですらなくなります).

そうしたことから,数学で何かしらよくわからない対象が現れたとき,それを「幾何学的な視点で見たときに」どのような形状になっているのかを知る必要があります.

もしくは,単純に空間としての次元があがって,図に描くことが困難になった場合にも基本群を調べることが有用になります.

■基本群は単に穴の数を教えてくれるだけではない

以上のように,「ループが1点に回収できないときに,空間 $ M $ に穴があることがわかる」という基本群の説明はよくあるものです.しかし,空間の穴を調べるだけなら,基本群よりもはるかに計算のしやすい「ホモロジー群」を使えば事足ります.基本群の重要なところは,穴だけではなく「空間の絡み具合」を知ることができるところです.

基本群にはループを結合させるという演算が定められています.実はこの演算こそ重要なものです.

例えば以下のような2つの空間を考えてみましょう.

この2つの空間は,1点に回収できないループが存在するという意味においては同じものです(これは1次ホモロジー群が同型になると言い換えることもできる).しかしこの2つの空間は絡み具合が異なっています.基本群はその情報をも持っています.

まず,空間 $M$ の基本群は,1点に変形できないループが整数の数だけ存在します(時計回りに $ n $ ループするものと半時計回りにするもの).

では空間 $N$ はどうでしょう? この空間にも1点に変形できないループが同じように存在します.しかし今回はそのループ同士の関係の仕方が異なっているのです.例えば以下の2つのループは同じものとみなされます.連続変形によって移りあうことができるからです.

しかし,以下の2つのループは違うものです.一方から一方へ変形することができないからです.

この時点で,先ほどの空間$M$と空間$N$の基本群は違うものになっていまることがわかります.なぜなら,空間$M$では一点に連続変形できないループは一種類しかなかった(正確にはその一種類とその整数回転分)のに対して,空間$N$においては,二種類以上存在しているからです.では$M$と$N$の基本群はどれだけ違うものになっているのか? それを先ほどの基本群の演算を使って表すことができます.以下の3つのループ $\alpha,\beta,\gamma $ を考えてみます.

すると $ \alpha,\beta,\gamma $ を結合したループは,連続変形によって $ \beta$ にすることができます.

基本群の文脈でこのことは,
\begin{eqnarray}
\alpha\beta\gamma =\beta
\end{eqnarray}
と表すことができます.これらの関係をいろんな場所で集めて,最後に式変形によって簡単化すると基本群として
\begin{eqnarray}
\pi\f 1(M)&=&\ck{\alpha,\beta\vl \alpha\inv\beta\alpha\inv = \beta\alpha\inv\beta }
\end{eqnarray}
というものが得られます.(この右辺の群は $\alpha,\beta$ で書かれる $\alpha\beta ^3\alpha^{-2}\beta^{-2}$などのような単項式をすべて集めたきたもので,それぞれの単項式に $ \alpha\inv\beta\alpha\inv = \beta\alpha\inv\beta $ という関係が入っているものです.)

つまり基本群のループというのは,互いの間に非自明な関係式があり,それにより単なる穴の数以上の情報を持っているのです.

基本群はループとして定義されるのが普通ですが,実は別の意味も持っています.そもそも群というものは多面体の回転や,平面の線形変換など,何かしらの空間の「変換」としての意味を持つものでした.では基本群は一体,どんな空間のどんな変換になっているものなのでしょう? むろん,自然に変換としての意味を持たない(見えづらい)ような群も存在します.ですが,基本群は変換としての意味も持っています.このことも次に説明したいと思います.

【ループを使わない基本群の解釈】



■数学的定義(数学的な定義はどうなのか知りたい人用のパートです)

多様体 $ M $ 上の「ループ」とは,閉区間 $ [0,1]\subset\rea $ から $ M $ への連続写像 $ \gamma:[0,1]\to M $ で, $ \gamma (0)=\gamma (1) $ を満たすものことと定義します.また $ x\in M $ を基点としたループは $ \gamma (0)=\gamma (1)=x $ を満たすようなループとします.

すなわち,「ループ」は $ M $ 上の図形ではなく写像として定義されます.この文脈において「 $ M $ 上の一点 $ x $ 」は定値写像 $ \gamma:[0,1]\to M\; r\mapsto x $ を表します.また, $ M $ 上のループ $ \alpha $ と $ \beta $ が「連続的に移りあう」は,数学的にはホモトピックという概念において定義されます.

多様体 $ M $ 上のループ $ \alpha,\beta $ が連続的に移りあうとは,以下を満たすような連続写像 $ F:[0,1]\times[0,1]\to M $ が存在することを意味します:
\begin{eqnarray}
\forall x\in [0,1]\quad F(0,x)&=&\alpha (x)\kg
\forall x\in [0,1]\quad F(1,x)&=&\beta (x)
\end{eqnarray}
そしてこのことを $ \alpha $ と $ \beta $ はホモトピックであると呼び, $ \alpha\sim\beta $ と表します.

$ M $ 上の $ a\in M $ を基点とするループをすべて集めた集合を $ L(a,M) $ とし,この $ L(a,M) $ の2つの要素 $ \alpha,\beta $ に対して,ループの結合演算 $ \cdot $ を次のように定義します.
\begin{eqnarray}
(\beta\cdot\alpha)(x)=\begin{cases}
\alpha (2x)\quad (x\in [0,1/2])\kg
\beta (2x-1)\quad (x\in (1/2,1])
\end{cases}
\end{eqnarray}
すると $ (L(a,M),\cdot ) $ は群となります.先ほどのホモトピック関係 $ \sim $ は $ L(a,M) $ 上の同値関係となり,基本群はこの $ (L(a,M),\cdot ) $ を $ \sim $ で割って得られる群と定義します.あるいは群の文脈でしっかりというならば, $ L(a,M) $ の正規部分群
\begin{eqnarray}
&&Z=\jb{\gamma\in L(a,M)\vl \gamma\sim a}\\
&&( この式における\; a\; は定値写像\; [0,1]\to M; r\mapsto a\; を表す)
\end{eqnarray}
によって得られる $ L(a,M) $ の剰余群を基本群 $ \pi\f 1(a,M) $ と定義します.つまり
\begin{eqnarray}
\pi\f 1(a,M)=L(a,M)/Z
\end{eqnarray}
です.ただし,(空間$M$が弧状連結な場合)基点 $a\in M$ の取り方によって基本群は変わらないので,$\pi\f 1(a,M)$ を単に $\pi\f 1(M)$ と書いてしまいます.なので$\pi\f 1(M)$と単に書かれていたら,空間のどこかに基点が設けられたループの(類の)集まりであると考えられます.(そもそも基点を設けない基本亜群というものもありますが,それは $\Pi\f 1(M)$ など違う記号を使うので,これとの違いに注意してください.)

以上が基本群の数学的な定義となります.数式で書かれると煩わしく感じてしまいますが,これが意味するところはさきほどの説明と大差はありません.

【ループを使わない基本群の解釈】

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です