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【ますかる – 複素解析編 – 第4節】本家コーシーの積分公式・そして正則関数の正体へ迫る

4.1 疑問点

前回【なんとなくでコーシーの積分公式を導く

サイン 「なんとか積分公式っぽいものは求められたけど…でもちょっと待てよ…」

コサイン 「何か疑問点?」

サイン 「いや…そもそも $ z=\alpha $ でテイラー展開できるってどういうことだっけ.」

コサイン 「テイラー展開できること? それは… $ z=\alpha $ で
\begin{eqnarray}
f(z)=\sum\thr n=0^\infty\frac{f\pne n(\alpha )}{n!}(z-\alpha)\ef n
\end{eqnarray}
って表示できることじゃない?」

サイン 「いやいや,でもさ,右辺って $ z=\alpha $ を代入すると $ (z-\alpha) $ の部分が全部 $ 0 $ になって $ f(\alpha) $ になるから, $ z=\alpha $ で
\begin{eqnarray}
f(z)=\sum\thr n=0^\infty\frac{f\pne n(\alpha )}{n!}(z-\alpha)\ef n
\end{eqnarray}
になることは当たり前じゃない?」

コサイン 「それは…そりゃそうか…」

サイン 「実関数のときを思い出そう.」

コサイン 「実関数のときは… $ x=a $ でテイラー展開できるっていうのは……そうだ. $ z=a $ の『近傍』でテイラー級数表示できることだ.」

コサイン 「この定義を複素数の場合も適用すればいいんじゃない?」

サイン 「つまり, $ f(z) $ が $ z=\alpha $ でテイラー展開可能であるっていうのは, $ z=\alpha $ のすぐ近くではテイラー級数で表示できるってこと?」

コサイン 「そう.そういうこと.」

サイン 「でもさ,テイラー級数で表示できる範囲って限られてたよね?」

コサイン 「……そうだね.」

サイン 「だとしたら,最後の積分計算をしたときの単位円 $ C $ 上ではテイラー級数で表示できるとは限らないんだよね?」

コサイン 「たしかにそうだなぁ… $ z=\alpha $ でテイラー展開可能だってことを言うだけじゃダメだな….」

コサイン 「でも,コーシーの定理で経路は正則な領域で変形し放題なんだから,テイラー級数表示ができてる領域に含まれるまで円周を小さくしちゃえばいいんじゃない?」

サイン 「たしかに…それならよさそうだ.この領域内の円周だったら,計算にテイラー級数を使ってもはずだ.」

コサイン 「これで解決…?」

サイン 「そうっぽいね…」

コサイン 「ここまでの計算にぬかりはないかなぁ」

サイン 「どうだろう…なんとなくやっつけ計算って感じがするけどね.」

4.2 ちょっとおさらい

ネイピー 「どんな感じです~?今日は.」

サイン 「あ,ネイピー姉さん.積分のアレ,分かってきましたよ~.」

ネイピー 「アレ?」

コサイン 「『アレ』じゃわかんないでしょ.あの…周回積分で導関数が計算できるというやつ.一般の $ f(z) $ で確かめることができたんです.」

ネイピー 「おぉ…いいですね~.どのように確かめました?」

コサイン 「関数の発散部と正則部に分けて計算するというやり方,一般の $ f(z) $ でも『テイラー展開さえできれば』できるんじゃないかと思いまして.」

サイン 「最終的には,こんな結果が出てきました.」

サイン 「これですべて円満解決です!」

コサイン 「解決かな?なんとなくだけど…仮定が多い気がするんだよな….」

ネイピー 「このことは具体的にどのように証明しました?」

コサイン 「えーと…流れだけ書くと…….まずコーシーの定理を何度も使うことで,経路 $ \gamma $ を円周 $ C $ に変形しました.このようにしても積分値に変化はないので….」

ネイピー 「ふむ.」

コサイン 「そのあとに… $ f(z) $ をテイラー展開して…… $ f(z)/(z-\alpha)\ethr n+1 $ を発散する部分と正則な部分に分けて…」

サイン 「そのあとは両辺を積分,積分だね.」

コサイン 「発散部分の積分計算がほとんど $ 0 $ になってくれたので助かりました.」

ネイピー 「そうですね. $ 1/(z-\alpha)\ef n $ の部分は $ n\geq 2 $ のときは正則な原始関数
\begin{eqnarray}
-\frac{1}{(n+1)(z-\alpha)\ethr n+1}
\end{eqnarray}
が存在しますから,積分すると $ 0 $ になってしまいますね.」

サイン 「あ…そうか.そういう考え方もできますね.ということはその部分は具体的に計算しなくても $ 0 $ になることが分かるのか…」

ネイピー 「計算をするのもいいものですよ.計算経験を多く積んでおくと,一般論に触れたときに見通しが付きやすくなりますから.」

サイン 「めっちゃ計算します!」

4.3 問題点を探す

コサイン 「それで….なんとなくやっつけ計算のような感じになってしまっていますが…この計算の仕方,何か問題点ありますかね?」

ネイピー 「そうですね…どのぐらいの厳密さで議論したいかにもよりますが…,とりあえず気になったのは…」

(テイラー展開可能の定義)

ネイピー 「テイラー展開可能であるというのは,どのように定義されているか…ですね.」

コサイン 「あ,それは一応考えたんですが, $ f(z) $ が $ z=\alpha $ でテイラー展開可能であるというのは, $ z=\alpha $ のすぐ近くで
\begin{eqnarray}
f(z)=\sum\thr n=0^\infty\frac{f\pne n(\alpha )}{n!}(z-\alpha)\ef n
\end{eqnarray}
のような級数で表されることだとしました.」

ネイピー 「なるほど.つまり $ z=\alpha $ の近くでは,右辺の級数がちゃんと収束してくれることとしたわけですね.」

コサイン 「そうです.コーシーの定理で $ \gamma $ を円周に変形するときに,この級数で表示されている領域まで変形することで積分計算にテイラー展開の式を持ち込んでいます.」

ネイピー 「ふむ.でもいまは曖昧な言葉を極力減らすために『すぐ近く』という表現はもうちょっと正確に書きますか.」

$ f(z) $ が $ z=\alpha $ でテイラー展開可能であるとは, $ z=\alpha $ を中心とするある円板領域内 $ \jb{z\in\com\vl\abs{z-\alpha}<\vare} $ で
\begin{eqnarray}
f(z)=\sum\thr n=0^\infty\frac{f\pne n(\alpha)}{n!}(z-\alpha)\ef n
\end{eqnarray}
と表されること.

ネイピー 「『すぐ近く』を『円板領域』という言葉で書くことで曖昧な部分がなくなってくれます.」

サイン 「なるほど~.円板領域ですね~.」

ネイピー 「これで, $ f(z) $ が $ z=\alpha $ でテイラー展開可能であるということの定義ができますね.」

コサイン 「 $ \exp z $ とか $ \cos z $ とかは,どんな点でもテイラー展開できる…といっていいんですよね?」

ネイピー 「そのとおりです.」

ネイピー 「あと,厳密性を重視するなら,無限に関することはおろそかにできませんね.」

(級数の「項別計算」の是非)

(級数の「正則部分」が本当に正則であることの証明)

サイン 「あ~…でもやっぱりこういうことの証明は必要になりますかぁ…」

ネイピー 「しっかりやろうとしたら,そうなりますね.でもワイエルシュトラスの定理のような関数の無限列に関する一般論を使うと,こういった級数操作や正則性は成り立っています.」

サイン 「ほぇ~…そうなんですねぇ.」

ネイピー 「ただ…今回の証明の問題点はもう少し別なところにあります.」

4.4 一番の問題点

ネイピー 「たしかに $ f(z) $ がテイラー展開可能であることや,ベキ級数の収束性,項別計算可能性などを使えば,
\begin{eqnarray}
2\pi i\cdot \frac{f\pne n(\alpha)}{n!}=\oint\f\gamma\frac{f(z)}{(z-\alpha)\ethr n+1}dz
\end{eqnarray}
を示すことはできます.」

ネイピー 「ただ….本家のコーシーの積分公式は,様々な一般論の土台となる定理で,より少ない条件下で成り立つものなんです.」

コサイン 「うーむ…まぁ,たしかに $ f(z)/(z-\alpha)\ethr n+1 $ の積分値を導くのに,少し大道具を使いすぎかなとは思いました.」

ネイピー 「定理は『仮定が少なければ少ないほど』たくさんの応用ができます.言い方を変えれば数学的に『根源的な』定理だと言えます.今回示したことは,正則関数 $ f(z) $ が $ z=\alpha $ でテイラー展開可能なら, $ f(z)/(z-\alpha)\ethr n+1 $ の積分値が導関数と関与するということでしたね.」

コサイン 「そうですね.」

ネイピー 「ちょっと実数のときのことを思い出すと, $ x=a $ でテイラー展開,あるいは冪級数展開と言っても同じことですが,このような展開が可能な関数のことを『 $ x=a $ で解析的な関数』と呼んでいました.」

サイン 「あ~たしかそんな呼び名でしたね! 『微分可能』の概念の頂点に立っているやつ.」

ネイピー 「そうですそうです.複素関数の場合も $ z=\alpha $ でテイラー展開可能な関数のことを,『 $ z=\alpha $ で解析的な関数』と呼ぶことにします.いまの話はこの言葉を使うとこうなりますね.」

コサイン 「文章がスマートになりますね.」

ネイピー 「でも,ここでちょっと考えてみてください.実数のときのことを思い出すと,解析的という性質は微分可能性の中でももっとも『良い性質』です.このような性質を頂点においてしまうと,正則関数への一般論への応用ができなくなってしまいます.」

サイン 「一般論への応用が…?」

ネイピー 「何しろ,解析的な関数という一番『特別な関数』にしか定理を適用することができませんからね.」

コサイン 「たしかに一般に正則関数に対する積分値が知りたいときには使えなくなってしまいますね….」\

4.5 本家コーシーの積分公式

サイン 「じゃあ,本家のコーシーの積分公式ってどういうものなんですか?」

ネイピー 「本家は $ f(z) $ の条件として,解析性よりもゆるい条件である正則性だけを仮定しています.」

コサイン 「正則性,ってつまり $ f(z) $ が複素一階微分可能であることだけを仮定するってことですよね?」

ネイピー 「そういうことになりますね.」

コサイン 「それ,ちょっと考えたんですが,コーシーの積分公式って
\begin{eqnarray}
\oint\f\gamma\frac{f(z)}{(z-\alpha)\ethr n+1}dz=2\pi i\cdot\frac{f\pne n(\alpha )}{n!}
\end{eqnarray}
という形ですよね?  $ f(z) $ が一階微分可能ってだけだと,そもそも $ f\pne n(\alpha) $ が存在するかどうかもわからないんじゃ…」

ネイピー 「それはもっともです.なので正則性だけを仮定した最初の本家コーシーの積分公式はこういう形です.」

コサイン 「 $ \partial D $ ってなんです?突然現れたような….」

ネイピー 「 $ \partial D $ というのは円板領域 $ D $ の『境界』,つまり縁にある円周のことです.この記号を使った場合は自動的に反時計回りの円周としています.」

サイン 「 $ \partial $ ってなんだか偏微分の記号みたいですね.」

ネイピー 「 $ \partial $ という記号を使う理由は微分幾何学の範疇になりますが, $ dx,dy $ などに使われてる $ d $ と密接に関係しているからなんです.」

サイン 「へぇ~.そうなんですかぁ….一見関係なさそうなのに….」

コサイン 「なんだか記号一つとっても面白そうな話が隠れていそうですね.」

ネイピー 「何気なく使っている記号にもちゃんと理由や意味がありますからね.こういったことに疑問を抱くのも面白いものですよ.でもいまは $ \partial $ 記号について深入りしないことにしましょう.話が変な方向にいっちゃいますからね.」

サイン 「4次元方向に…いっちゃいますね…」

ネイピー 「いっちゃう…かもしれません.」

ネイピー 「さて…コーシーの積分公式です.」

サイン 「そうだったそうだった.えーとこれが…本家コーシーの積分公式ですかぁ…正則性だけを仮定するとこれぐらいしか言えないんですねぇ」

ネイピー 「いえいえ,話が広がるのはこれからですよ.」

コサイン 「これを見ると,積分経路は円周に限定されているんですね.」

ネイピー 「そうですね.円周です.実は積分経路はもう少し一般化することはできるんですが,そのためにはまだ問題があるんです.」

サイン 「円周の代わりに『 $ z=\alpha $ を一周する閉曲線 $ \gamma $ 』を持ってきちゃダメですかね? コーシーの定理を使えば積分経路を円周にできちゃいますし…」

ネイピー 「曲線を素朴に扱う分にはいいんですが,厳密には『一周』をどう定義するのか,という問題があって難しいんです.」

コサイン 「一周…一周の定義…うーん…でもよく考えてみるとたしかに…一周ってなんだろう.」

サイン 「こうしてみたらどうだろう. $ z=\alpha $ を中心に反時計回りの円周に連続的に変形できる曲線を $ z=\alpha $ を一周する曲線と定義する!」

コサイン 「お,それはよさそう.」

ネイピー 「その場合,こんどは『連続変形』を定義する必要が生じてきちゃいます.」

サイン 「あ…そうか…おのれ『一周』め\

コサイン 「一周という概念に怒りを覚えたか.」

ネイピー 「考えてみると『一周』をちゃんと定義するのは難しいことに気づいてきたはずです.なので現状『反時計回りの円周』に限定して話をすることにします.正則関数の一般論にはそれだけでも問題はありません.『一周』の定義とか『連続変形』の定義の話は関数論というよりかは『トポロジー』という分野の範疇に入ってきます.」

サイン 「トポロジー! あれだ.コーヒーとドーナツが一緒ってやつ.」

コサイン 「コーヒーカップとドーナツね.」

サイン 「ぬぬ.」


4.6 正則性だけでコーシーの積分公式を示してみる

ネイピー 「コーシーの積分公式は,コーシーの定理を使うことで示すことができます.」

サイン 「よし.ちょっと根性入れて聞いてみます.」

コサイン 「コーシーの定理をどのように使えば出てくるんでしょう?」

ネイピー 「次のような関数に適用するんです.」
\begin{eqnarray}
F(z)=\begin{cases}
\dis\frac{f(z)-f(\alpha )}{z-\alpha } & (z\neq\alpha )\\
f'(\alpha ) & (z=\alpha )
\end{cases}
\end{eqnarray}
サイン 「あ,微分のときに出てきた式だ.」

ネイピー 「微分のときの極限の中身,いわゆる関数の『差商』と呼ばれるやつですね.実関数の場合は『増加率』という呼び名もありました.これにコーシーの定理を適用してしまいましょう.」

コサイン 「うーむ.なるほど… $ f(z) $ は $ D $ 上で正則だから,
\begin{eqnarray}
\lim\thr z\to\alpha \frac{f(z)-f(\alpha )}{z-\alpha}
\end{eqnarray}
が存在している…だから $ F(z) $ は $ z=\alpha $ で正則になってくれるわけですね.」

サイン 「そうか. $ f(z) $ が正則じゃなかったら $ F(z) $ は $ z=\alpha $ でどんな値を取ったとしても
\begin{eqnarray}
\lim\thr z\to\alpha F(z)
\end{eqnarray}
が存在しないから不連続になってしまうんだ. $ f(z) $ が正則なら $ F(\alpha)=f'(\alpha) $ とできるから $ F(z) $ も同時に $ \alpha $ で正則になってくれる!」

ネイピー 「そのとおりです.と言いたいところですが,実は $ F(z) $ が『連続』であることはわかりますが,正則であることまではいまはわかりません.」

サイン 「む…そうか… $ f(z) $ の正則条件から言えることは,
\begin{eqnarray}
\lim\thr z\to\alpha F(z)=F(\alpha )=f'(\alpha)
\end{eqnarray}
だけだから, $ F(z) $ は $ z=\alpha $ で連続であることしか言えないか.」

ネイピー 「結論から言うと, $ F(z) $ は正則になってくれるのですが,ちゃんと示そうとしたら $ z=\alpha $ で $ F(z) $ がCR関係式を満たすことを確認しなきゃいけません.具体的な関数ならまだしも,一般の関数に対してそれを示すのは少し骨が折れます.」

コサイン 「うーむ.ではどのようにしてコーシーの定理を適用しましょう…」

ネイピー 「コーシーの定理は円板上正則な関数に関する定理でしたが,実はいまみたいな『一点で正則になっているかどうかわからないけど連続にはなっている』関数に対しても適用することができます.」

コサイン 「それは便利ですね」

ネイピー 「コーシーの定理は後でちゃんと証明を与えた方がいいかもしれませんね.いまはコーシーの定理を土台にしてどこまで正則関数の理論を展開できるかに焦点を当てていきましょう.」

サイン 「イエッス!  $ F(z) $ にコーシーの定理が使えるってことは…
\begin{eqnarray}
\oint\two\partial DF(z)dz&=&0\\
\oint\two\partial D\frac{f(z)-f(\alpha)}{z-\alpha}dz&=&0
\end{eqnarray}
になるってことですね.」

ネイピー 「そういうことです.その式を少し変形することで
\begin{eqnarray}
\oint\two\partial D\braces{\frac{f(z)}{z-\alpha }-\frac{f(\alpha)}{z-\alpha}}dz&=&0\\
\oint\two\partial D\frac{f(z)}{z-\alpha }dz&=&\oint\two\partial D\frac{f(\alpha)}{z-\alpha}dz\\
\oint\two\partial D\frac{f(z)}{z-\alpha}dz &=& f(\alpha )\oint\two\partial D\frac{1}{z-\alpha}dz
\end{eqnarray}
となりますね.」

サイン 「お,ということは後は $ 1/(z-\alpha) $ の積分さえ分かればOKですね! $ \partial D $ はコーシーの定理を使って $ z=\alpha $ 中心の円周に連続的に変形できるから,これで計算すればできそうです.」

ネイピー 「たしかにできますね.ただ,現状この『連続的な変形』による証明は『図に頼った』ものなので,今回はそれを使わずに示してみましょう.」

サイン 「ぬぬ…図というオアシスを使った証明をしないのはなかなかきつそう…」

ネイピー 「図を使わない…というより,図を使ってなにか行うときは同時に数式としての意味も書いておこう,ぐらいの感じですね. $ 1/(z-\alpha) $ のような単純な関数ならコーシーの定理を使った連続変形を使わなくても,原始関数の言葉を使った証明が可能になります.」

コサイン 「原始関数っ…久々の登場だ.」

ネイピー 「コーシーの定理を使う前までは,原始関数に頼って周回積分をしていましたね.今回もそれに頼ることができます.いま $ \beta $ を円板 $ D $ の中心とすると
\begin{eqnarray}
\frac{1}{z-\alpha}-\frac{1}{z-\beta}
\end{eqnarray}
という関数は $ U\setminus L $ の上で正則な原始関数を持ちます. $ L $ は $ \alpha $ と $ \beta $ を結んだ線分です.」

サイン 「本当にこの領域で $ \dis\Log\frac{z-\alpha}{z-\beta} $ って正則なんですか? たしか $ \Log z $ って $ \com\setminus 0 $ では正則じゃないんでしたよね?」

ネイピー 「 $ \Log z $ は負の実軸を除いた領域 $ \com\setminus\rea\two\leq 0 $ で正則関数ですね.今回の場合
\begin{eqnarray}
\frac{z-\alpha}{z-\beta}
\end{eqnarray}
は $ \com\setminus L $ 上で絶対に負の実数にはならないので,これと $ \Log $ の合成関数である
\begin{eqnarray}
\Log\frac{z-\alpha}{z-\beta}
\end{eqnarray}
は正則になるというわけです.」

コサイン 「正則関数の合成は正則だから…というわけですね.」

ネイピー 「そういうことです.導関数が $ 1/(z-\alpha)-1/(z-\beta) $ になることは具体的に計算して確かめることができます.さて,原始関数が存在するような領域では,線積分は端点にしか依存しませんから周回積分は常に $ 0 $ になってしまいます.結局,目的の $ 1/(z-\alpha) $ の積分は次のように計算していけます.」
\begin{eqnarray}
\oint\two\partial D\braces{\frac 1{z-\alpha}-\frac 1{z-\beta}}dz&=&0\\
\oint\two\partial D\frac 1{z-\alpha}dz&=&\oint\two\partial D\frac 1{z-\beta}dz\\
&=&\int\f 0\etwo 2\pi \frac{1}{Re^{it}}(iRe^{it})dt\\
&=&2\pi i
\end{eqnarray}

サイン 「おぉ…連続変形って言葉を使わなくても $ 2\pi i $ が出てくる!これで
\begin{eqnarray}
\oint\two\partial D\frac{f(z)-f(\alpha)}{z-\alpha}dz=f(\alpha)\cdot\oint\two\partial D\frac{1}{z-\alpha}dz=2\pi i\cdot f(\alpha)
\end{eqnarray}
となることがわかるわけですね.」

ネイピー 「途中で少し特殊なコーシーの定理を使う場面はありますが,これで $ f(z) $ の正則性だけからコーシーの積分公式の一番簡単なバージョンを示すことができました.」


4.7 コーシーの積分公式が暴く正則関数の正体・一階微分可能なだけなのに…?

コサイン 「正則って条件だけから,
\begin{eqnarray}
2\pi if(\alpha )=\oint\two\partial D\frac{f(z)}{z-\alpha}dz
\end{eqnarray}
までは証明できましたねー」

サイン 「でもこれって,あんまり応用ができそうにない気がするなぁ…だって $ f(z)/(z-\alpha) $ っていう形の関数にしか適用できなわけですよね…?」

コサイン 「まぁ,それもそうだね. $ \exp (z)/(z-1) $ みたいなものにしか適用できない定理って感じだね.」

ネイピー 「ここまでの話だけだとそう感じてしまうかもしれません.でもこの積分公式,ここから少し見方を変えるだけで,かなりの威力を発揮します.」

サイン 「ほほう…華奢な見た目とは裏腹に潜在能力を隠し持っているわけですね.」

ネイピー 「その潜在能力をいまから発揮してもらいます.定理の内容をもう一度よく観察してみましょう.正則領域内に何かしらの円板が与えられたら,そのなかの『どの点 $ \alpha $ 』に対しても
\begin{eqnarray}
2\pi if(\alpha)&=&\oint\two\partial D\frac{f(z)}{z-\alpha}dz
\end{eqnarray}
が成り立つと言っています.」

サイン 「ふむ.ぬかりは無いのです.」

ネイピー 「大事なのは,この $ \alpha $ というのが円板領域のどの点にあったとしてもこの積分式が成り立つということなんです.」

コサイン 「どの点に対しても…たしかに定理の主張はそうなっていますね.」

ネイピー 「つまり…つまりですよ. $ \alpha $ は円板領域 $ D $ 上の『変数として』見ることができるんです.」

サイン 「お…おお?変数として…?」

ネイピー 「そうです.この $ \alpha $ を円板 $ D $ 上を動く変数だと考えて,変数ぽい文字 $ z $ に変えちゃいましょう.」

ネイピー 「この変数 $ z $ は円板領域 $ D $ 上を動きます.」

サイン 「ふむふむ.でもこれってただ文字を変えただけですよね?」

ネイピー 「いえいえ,よく見ると文字を変えただけではなく,積分公式の見かたも変わっています.さきほどは円板上のある一点 $ \alpha $ に対して
\begin{eqnarray}
f(\alpha)=\frac{1}{2\pi i}\oint\two\partial D\frac{f(w)}{w-\alpha}dw
\end{eqnarray}
が成り立つと言っているだけ.つまり一点の値についてしか言及していません.しかしこの $ \alpha $ を変数 $ z $ として見ることで,『関数 $ f(z) $ が』正則領域の中の円板 $ D $ では
\begin{eqnarray}
f(z)=\frac{1}{2\pi i}\oint\two\partial D\frac{f(w)}{w-z}dw
\end{eqnarray}
という周回積分によって表されるということが言えたんです.」

コサイン 「つまりコーシーの積分公式を『一つの値に対する主張』から『関数に対する主張』にすることができたわけですね.」

ネイピー 「そういうことです.端的に言えば,円板領域において『 $ f(z) $ は周回積分表示を持つ』と言い表せます.」

サイン 「うーむ.でも積分表示で表せると何かメリットがあるんでしょうか?」

ネイピー 「実は大いにあります.いま,積分表示は
\begin{eqnarray}
f(z)=\frac{1}{2\pi i}\oint\two\partial D\frac{f(w)}{w-z}dw
\end{eqnarray}
という形をしていますが,このような形の積分に関して,次のようなことが成り立ちます.」

サイン 「おっと…つまりコーシーの積分公式の両辺を $ z $ で微分できるってわけですね!」

コサイン 「 $ z $ で微分できるのは $ f(z) $ が正則だから当然じゃない? というより積分の中身を微分するだけで全体の微分が完了するっていうのがミソっぽい.」

サイン 「お…そりゃそうか. $ f(z) $ は正則だと仮定されていたんだったね.」

ネイピー 「そのとおりです.これを実際に積分公式に適用してみると…
\begin{eqnarray}
f'(z)&=&\frac{d}{dz}\braces{\frac 1{2\pi i}\oint\two\partial D\frac{f(w)}{w-z}dw}\\
&=&\frac{1}{2\pi i}\oint\two\partial D\frac{d}{dz}\braces{\frac{f(w)}{w-z}}dz\\
&=&\frac{1}{2\pi i}\oint\two\partial D\frac{f(w)}{(w-z)\ef 2}dz
\end{eqnarray}
となりますね.」

サイン 「おお!そうか,積分の中身って $ z $ を変数としてみたら結局
\begin{eqnarray}
\frac{a}{b-z}
\end{eqnarray}
っていう関数と同じ形だから,微分が簡単に計算できるんだ!これは強いぞ.」

コサイン 「これであっという間に $ f'(z) $ の積分表示まで得られちゃった.」

サイン 「これで正則関数に関しての積分公式はすべて得られたわけですね.」

ネイピー 「いえ,実はここで終わりではありません.さきほどの【積分表示の正則性】をよくみてください.」

ネイピー 「これによると,導関数の積分表示である右辺は
\begin{eqnarray}
\oint\two\partial D\frac{f(w)}{(w-z)\ef 2}dw
\end{eqnarray}
という形ですから,正則でさらに微分することができます.このように.」
\begin{eqnarray}
f”(z)&=&\frac{1}{2\pi i}\oint\two\partial D\bibun{}{z}\braces{\frac{f(w)}{(w-z)\ef 2}}dw\\
&=&\frac{2}{2\pi i}\oint\two\partial D\frac{f(w)}{(w-z)\ef 3}dw
\end{eqnarray}
サイン 「おー…たしかに言われてみればもう一回微分できますねぇ」

コサイン 「これで $ f”(z) $ の積分表示も得られて…それでまた右辺は先ほどと同じような形だからまた微分できるわけですね.」

ネイピー 「そういうことです.どこまででも微分できてしまいます.」
\begin{eqnarray}
f”'(z)&=&\frac{2\cdot 3}{2\pi i}\oint\two\partial D\frac{f(w)}{(w-z)\ef 4}dw\\
f””(z)&=&\frac{2\cdot 3\cdot 4}{2\pi i}\oint\two\partial D\frac{f(w)}{(w-z)\ef 5}dw\\
&\vdots &\\
f\pne n(z)&=&\frac{n!}{2\pi i}\oint\two\partial D\frac{f(w)}{(w-z)\ethr n+1}dw\\
&&(z\in D)
\end{eqnarray}
コサイン 「おぉ…っ!これで $ n $ 階導関数の積分表示まで得られちゃうんですね.」

サイン 「すごい…テイラー展開を使わなくてもこうやって導けて………」

サイン 「あれ?………」

コサイン 「どしたの?サイン.」

サイン 「ちょっとおかしなことを発見してしまいましたよ….」

ネイピー 「なにかに気づきました?」

サイン 「いや…私の勘違いじゃなければ…この $ n $ 階導関数の積分表示式を導くために使った仮定って… $ f(z) $ が正則であることだけですよね?」

ネイピー 「そうですよ~」

サイン 「正則ってことは,一階微分可能ってことですよね? そうすると…おかしい.」

コサイン 「あれ…たしかにそうだ.一階微分可能としか仮定していないのになんで $ f\pne n(z) $ なんてものが現れているんだろう….他には何も仮定してなかったはずですよね?」

ネイピー 「もちろんです. $ f(z) $ は $ U $ 上で正則であることしか仮定していません.」

コサイン 「では… $ f\pne n(z) $ が出てくることはどう解釈すればいいんでしょう.」

ネイピー 「そのままの通り解釈すればいいんです.つまりコーシーの積分公式から導かれることの一つ.それは『正則関数は無限階微分可能関数』ということです.」

サイン 「ええっ!? それってつまり…1階微分可能なら $ \infty $ 階微分可能ってことじゃ…?」

ネイピー 「そういうことになります.実関数のときは考えられなかった結果です.」

コサイン 「複素関数は1階微分できれば,何回でも微分できる……なんてことだ…」

ネイピー 「ちょっと順を追って整理してみましょう. $ f(z) $ が領域 $ U $ で正則だとします.そして任意の点 $ \alpha\in U $ を取ってきましょう.」

ネイピー 「 $ U $ 内で $ \alpha $ を中心とする円板領域 $ D\f\alpha $ を考えると,この円板領域 $ f(z) $ は積分表示で与えられ,結果無限階微分可能関数であることが従い,少なくとも $ \alpha $ で無限階微分可能だということがわかります.」

ネイピー 「つまり次のようなことがわかりますね.」

サイン 「って…ことは…複素関数では1階微分可能も2階微分可能も $ n $ 階も無限階も全部同じことってことですか…!?」

ネイピー 「YESです.実関数のときの【微分可能関数の勢力図】が複素関数では大きく様変わりしてしまいますね.」

サイン 「複素関数の勢力が…弱くなって……いやむしろ強くなって…いる?」

コサイン 「複素関数の方が『性質のいい関数』ばっかりだからきっと実数勢力より強いだろうね.」

サイン 「おぉ!そりゃそうだ!これで勝てるぞ!」

コサイン 「何に…」

ネイピー 「実は,この複素関数の勢力図はまだ正しくありません.もう少し変化します.」

サイン 「まだ変身を残しているのか…複素関数は」

コサイン 「変身って…」

ネイピー 「コーシーの積分公式を使った変身はまだたくさん残していますよ.びっくりするようなものがたくさんね.」

サイン 「きっと全部強い…」

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