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【ますかる – 複素解析編 – 第3節】周回積分とコーシーの定理

サイン 「ネイピー姉さん! 以前話していたコーシーの積分公式(参照【複素関数の経路による線積分の値の違いが微分係数になるのを確かめたい】),具体例で計算してみましたが,ちゃんと導関数の値が出てきましたよ!」

コサイン 「経路での積分値の違いが導関数になってるってやつです.」

ネイピー 「どういった具体例でやりました?」

コサイン 「 $ f(z)=z^4 $ という関数を例にとって,
\begin{eqnarray}
\frac{z^4}{(z-1)\ef 3}
\end{eqnarray}
の積分を実行したところ,ちゃんと導関数の値が出てきたんですよー.」

ネイピー 「おぉっ.積分経路は正方形型にしたんですね.計算大変じゃありませんでしたか?」

サイン 「大変でした…」

コサイン 「実は最初 $ f(z)=ze^z $ で挑戦したんですが,複雑になりすぎて積分ができなくなってしまいました…」

サイン 「 $ f(z)=\exp(\cos(\sin(\exp(\cos(\sin z))))) $ なんて夢のまた夢だ….」

コサイン 「それは極端すぎだ…」

ネイピー 「なるほど…確かに,直に計算をしようとすると線積分というのは大変ですね….」

コサイン 「でも,これが一般の $ f(z) $ でできるっていうのが驚きです.計算過程はあれだけ大変なのに…いったいどうやっているのだろうと….」

ネイピー 「こういった線積分の計算は,具体例を扱うよりも,一般論で考えたほうが見通しがよくなることがあります.さきほどの積分の値が導関数と関連するという【コーシーの積分公式】はより発展的な内容です.その前段階として【コーシーの定理】というものがあるのですが,ここから話を始めるのがいいかもしれません.」

サイン 「コーシーの定理とかコーシーの積分公式とか…定理の名称がずいぶんと厄介ですね.この2つって違う定理なんですよね?」

ネイピー 「違う定理です.これは実際ややこしいですね…でも名称は歴史的な事情もありますから仕方がありませんね.」

ネイピー 「コーシーの定理の話に入る前に,曲線に関する記号を少し定義して,その後『経路による積分値の違い』という言葉の言い換えを考えましょう.」

サイン 「曲線の記号~.」

ネイピー 「まず…繰り返しにはなりますが,『曲線』という言葉の定義を確認しておきましょう.」

コサイン 「実数直線上の区間 $ [a,b] $ から複素平面 $ \com $ への連続関数のことでしたよね.」

ネイピー 「イエス.ただ,これから曲線を扱っていく上で $ \com $ のある領域 $ U $ に対して,『 $ \gamma $ を $ U $ 上の曲線とする』という言葉が出てきます.このように『 $ U $ 上の』という言葉がついた場合は, $ \gamma $ の値域が $ U $ であることを意味します.」

コサイン 「なるほど…まあ直観には反しないですね.」

ネイピー 「そして,少し細かいところですが,線積分をするときに $ \gamma:[a,b]\to U $ の導関数 $ \gamma ‘ $ を考える必要がありましたので, $ \gamma $ は『区分的に微分可能』であると暗黙のうちに仮定されています.」

サイン 「区分的?」

ネイピー 「簡単に言えば, $ \gamma $ は必ず微分可能な曲線に分割できることを条件にしています.」

コサイン 「確かにそういう条件も積分のためには必要なことですね.」

ネイピー 「さて, $ U $ 上の曲線 $ \gamma :[a,b]\to U $ が与えられると,それに対して逆向きの曲線を考えることができます.それを $ (-\gamma) $ と書きましょう.」

サイン 「 $ (-\gamma) $ というのも曲線だから,つまりこれも連続関数ってことですよね.」

ネイピー 「そうですね.具体的には $ U $ 上の曲線 $ \gamma:[a,b]\to U $ がパラメーター $ t $ によって $ \gamma (t) $ と表されている場合, $ (-\gamma) $ は
\begin{eqnarray}
(-\gamma )(t)=\gamma (a+b-t)
\end{eqnarray}
という連続関数として定義されます.」

コサイン 「なるほど…感覚的に逆向きの曲線で積分すると,積分値がマイナスになりそうですね.」
\begin{eqnarray}
\int_{-\gamma}f(z)dz=-\int_{\gamma}f(z)dz
\end{eqnarray}
サイン 「実積分でも,積分区間を反転させたらマイナスだったし,あれの曲線バージョンみたいなね.」
\begin{eqnarray}
\int\f a\ef bf(x)dx=-\int\f b\ef af(x)dx
\end{eqnarray}
ネイピー 「実際にそうなりますよー.線積分の定義から直接計算しちゃえば証明はできますね. $ \gamma:[a,b]\to U $ に対して $ (-\gamma)(t)=\gamma(a+b-t) $ でしたから…

コサイン 「確かに…直観に違わず,ちゃんと満たしてほしい性質が成り立ってますね.」

ネイピー 「ただ… $ (-\gamma) $ という記号ゆえに,間違えやすいことがあります.例えば
$ (-\gamma)(t)=-\gamma (t) $ という計算は誤りです. $ (-\gamma) $ というのはマイナス記号も含めて一つの曲線として扱っていますから,ちゃんと定義に倣って $ (-\gamma)(t)=\gamma(a+b-t) $ としなきゃいけません.」

サイン 「たしかに計算途中にポッと出で, $ (-\gamma)(s) $ みたいな記号が出てきたら手拍子で $ -\gamma (s) $ にしちゃいそうだな―」

コサイン 「注意しなきゃだね.」

ネイピー 「そうですねぇ.さて,曲線に対してもう1つの記号を定義しておきます.2つの曲線 $ \gamma\f 1:[a,b]\to U,\; \gamma\f 2:[c,d]\to U $ が与えられたとき, $ \gamma\f 1 $ の終点と $ \gamma\f 2 $ の始点が同じなら,それらを結合した曲線 $ (\gamma\f 1+\gamma\f 2):[a,b-c+d]\to U $ が定義されます.」

ネイピー「パラメーターによる表示はこんな感じです.」
\begin{eqnarray}
(\gamma\f 1+\gamma\f 2)(t)=\begin{cases}
\gamma\f 1(t) & t\in [a,b]\\
\gamma\f 2(t-b+c) & t\in [b,b-c+d]
\end{cases}
\end{eqnarray}

サイン 「それじゃ流れ的に,この積分計算は
\begin{eqnarray}
\int_{(\gamma\f 1+\gamma\f 2)}f(z)dz&=&\int\thr\gamma\f 1f(z)dz+\int\thr\gamma\f 2f(z)dz
\end{eqnarray}
になるわけですね.積分区間の足し算みたいに.」

ネイピー 「そのとおりです.こういう曲線の足し算の記号を導入しておくと,表記の上でも後々便利になります.」

サイン 「一応,線積分の定義に従って証明しておこう….」

サイン 「確かに成り立ってるな.」

コサイン 「 $ \gamma\f 1+\gamma\f 2 $ はパラメーターの表示がちょっと厄介ですね….」

ネイピー 「まぁ,こういったパラメーター表示というのは, $ (\gamma\f 1+\gamma\f 2) $ というものがちゃんと定義できることを確認するためのお飾りみたいなものですからね.実際に積分計算するときは $ \gamma\f 1,\gamma\f 2 $ に分けて考えるでしょうし…….以前言ったと思いますが,曲線が描く図形とその向きが一致してさえいれば,パラメーターの表示は何でもいいわけです.なので,人によっては曲線の定義を区間 $ [0,1] $ からの連続関数に限定していることもあります.」

ネイピー 「あと, $ (-\gamma) $ と同じように, $ (\gamma\f 1+\gamma\f 2) $ の場合も,
\begin{eqnarray}
(\gamma\f 1+\gamma\f 2)(t)=\gamma\f 1(t)+\gamma\f 2 (t)
\end{eqnarray}
という計算をしないように注意しないといけません.」

コサイン 「それも間違えそうです…でも,なんでそんな間違えやすい記号を使うんでしょう…逆向きの曲線を表すなら…例えば $ \gamma^逆 $ とか…あるいは $ \tilde\gamma,\; \gamma^- $ とかでもいいと思うし, $ \gamma\f 1+\gamma\f 2 $ もわざわざプラスを使わないで… $ \gamma\f 1\gamma\f 2 $ みたいに書いてもいいんじゃないかなぁ.これなら誤解も生みにくいし.」

ネイピー 「それはもっともですね.しかし,プラス・マイナス記号を使う理由はちゃんとあります.実は,のちのち曲線は『チェイン』という概念に置き換わるのですが,この『チェイン』は整数の足し算のような演算ができるようなものになっています.そうしたわけで,整数 $ n $ に対して,ある種その逆を意味するマイナス記号 $ -n $ や,整数の足し算を意味するプラス記号 $ n+m $ をチェインに対しても使うわけです.」

サイン 「つまり…のちのちチェインってやつを使うときのために,いまのうちにプラスとかマイナスの記号を使っておこうってことですか….」

ネイピー 「簡単に言うとそういうことになりますね.記号の使い方一つとってもちゃんと意味があるわけです.さてと…曲線の記号が定義できましたから,これで『経路による積分値の違い』を別な言葉で表すことができます.」

サイン 「やったぜ!」

コサイン 「やっ…た…?」

ネイピー 「やったんです.始点と終点が同じ2つの曲線 $ \gamma\f 1 $ と $ \gamma\f 2 $ が与えられたときに,その積分値の違いというのは
\begin{eqnarray}
\int\thr\gamma\f 2f(z)dz-\int\thr\gamma\f 1f(z)dz
\end{eqnarray}

です.これはさきほどの曲線の記号を使えば
\begin{eqnarray}
\int\thr\gamma\f 2f(z)dz-\int\thr\gamma\f 1f(z)dz=\oint_{\gamma\f 2+(-\gamma\f 1)}f(z)dz
\end{eqnarray}
と置き換えることができます.」

コサイン 「ほう…」

ネイピー 「つまり積分値の違いは, $ \gamma\f 2+(-\gamma\f 1) $ という『1つの曲線』上の積分に置き換えることができます.」

サイン 「確かにそうですね.具体的に
\begin{eqnarray}
\int\thr\gamma\f 2\frac{z^4}{(z-1)\ef 3}dz-\int\thr\gamma\f 1\frac{z^4}{(z-1)\ef 3}dz
\end{eqnarray}
を計算したときも,最終的に一つの積分式にまとまりましたし.」

ネイピー 「ここで,大事なことは $ \gamma\f 2+(-\gamma\f 1) $ が一つの『閉曲線』になっていること.閉曲線というのは始点と終点が一致しているような曲線のことです.」

コサイン 「ふむ…端っこの点が存在しないから,『閉じている』ということですね…」

ネイピー 「結局,経路による積分の違いというものはすべて『閉曲線上の積分値』に翻訳できますね.」

サイン 「確かに…わざわざ $ \gamma\f 2 $ と $ \gamma\f 1 $ の積分値の違い,みたいに言わなくても,閉曲線 $ \gamma $ 上の積分値って言えばいいだけだ….」

ネイピー 「何か簡単な関数, $ f(z)=z^3 $ を例に取ります.この関数には $ \com $ 上で正則な原始関数 $ F(z)=z^4/4 $ が存在します.」

コサイン 「正則な原始関数が存在すれば,線積分が端点にしか依存しなかったんでしたね.」

ネイピー 「そのとおりです.つまり始点と終点さえ一致していれば, $ \com $ 上でどんな経路を取ろうともその積分値は変わりません.つまり $ f(z)=z^3 $ は次の性質を満たしています.」

ネイピー 「これを閉曲線の積分に言い換えると」

コサイン 「ふむ…なるほど…こうやって言い換えられるのか」

サイン 「閉曲線の積分を使ったほうが,簡単に言えますね.」

ネイピー 「一般の関数 $ f(z) $ に対しては,次のようなことが言えますね.」

ネイピー 「これを周回積分の言葉言い直すと…」

サイン 「おお!見やすい.」

ネイピー 「こういった『閉曲線上の積分』は特別な意味を持つものとして『周回積分』と呼ばれたりします.また,積分の記号も単に $ \int $ ではなく $ \oint $ を使うことが多いです.」

コサイン 「閉曲線 $ \gamma $ での積分を
\begin{eqnarray}
\oint\f\gamma f(z)dz
\end{eqnarray}
と書くということですか.記号は変わっても,計算は線積分のときと変わらないんですよね?」

ネイピー 「計算は変わりません.ちょっと違う記号を使うだけですね.」

コサイン 「ふむ…なるほど」

■ $ f(z)=1/z $ の周回積分計算

ネイピー 「ではここで,正則な原始関数が定義域において存在しない関数として $ f(z)=1/z $ の周回積分を考えてみましょう.」

コサイン 「たしか, $ f(z)=1/z $ は定義域 $ \com\setminus\jb 0 $ で原始関数 $ \log z $ を持ってこようとすると多価関数になってしまうんでしたね.」

ネイピー 「そうです.しかし,負の実軸を除いた領域では $ \Log z $ という正則原始関数が存在していましたね.」

コサイン 「はい」

ネイピー 「つまり,負の実軸を除いた領域 $ \com\setminus\jb{x\in\rea\vl x\geq 0} $ の中では,任意の周回積分が $ 0 $ になります.」

サイン 「たしか負の実軸を通過する経路に対しては,積分値が $ 2\pi i $ だけ変化するんでしたね.」

コサイン 「周回積分の言葉を使うと…負の実軸を通る閉曲線上の積分は $ 2\pi i $ になる…ってことになりますかね.」

ネイピー 「そう言ってしまうと誤りになってしまいますね.例えば次のような閉曲線上の積分値は $ 0 $ になってしまいます.」

サイン 「あら…そうなんですね」

ネイピー 「 $ 1/z $ の原始関数が存在する領域というのは,負の実軸を除いた部分だけじゃありませんからね.例えば正の実軸を除いた領域もありえます.そのために,こういう閉曲線上の積分も $ 0 $ になってしまいます.」

コサイン 「うーむ…たしかにそうか…では, $ z=0 $ をまたぐ2つの経路で,閉曲線上の積分が $ 2\pi i $ になることは,周回積分の言葉でどう言えばいいのでしょう.」

ネイピー 「言うとしたら,『 $ z=0 $ の周りを反時計回りに一周する閉曲線上の積分は $ 2\pi i $ になる』ですね.」

コサイン 「あ…それはそうか.なるほど…」

サイン 「さっきの話を聞くと…積分を計算しようとする閉曲線が,何かしらの原始関数存在領域に含まれていると,自動的に $ 0 $ になってしまいますよね….」

サイン 「ということは $ z=0 $ の周りを1周する閉曲線は,どんな原始関数存在領域にも含まれていないということになりますかね?」

ネイピー 「そういう解釈でOKです.」

コサイン 「 $ z=0 $ の周りを一周する曲線上の積分が $ 2\pi i $ というのは……これはどんな形状の曲線であっても, $ z=0 $ を一周してさえいればそうなるんでしょうか?」

ネイピー 「そうなりますよ~.」

コサイン 「これって具体的に証明できることですか?」

ネイピー 「少しやってみますか.」

ネイピー 「では次のような閉曲線 $ \gamma $ に沿った積分が $ 2\pi i $ になることを示してみましょう.」

サイン 「すっごい形の曲線….こんなの計算できるんですか….」

ネイピー 「できちゃいますよ.まず, $ \gamma $ を2つの経路 $ \sigma\f 1,\sigma\f 2 $ に分けておきます.」

コサイン 「 $ \gamma =\sigma\f 1+\sigma\f 2 $ ですね.」

ネイピー 「イエス.ここで, $ f(z)=1/z $ の正則原始関数が存在する領域の一つとして $ \com\setminus\jb{x\in\rea\vl x\leq 0} $ が取れました.この領域内では積分は端点にしか依存しませんから, $ \sigma\f 1 $ を別な経路 $ \sigma\f 1\ef * $ に置き換えても積分値は変わりません.」
\begin{eqnarray}
\int\f\gamma \frac 1zdz&=&\int_{\sigma\f 1+\sigma\f 2}\frac 1zdz=\int_{\sigma\f 1\ef *+\sigma\f 2}\frac 1zdz
\end{eqnarray}

ネイピー 「さらに,正則原始関数存在領域として $ \com\setminus\jb{x\in\rea\vl x\geq 0} $ を取ることもできますから,この領域内でも積分は端点にしか依存しません.なので $ \sigma\f 2 $ も別な経路 $ \sigma\f 2\ef * $ に置き換えることができます.」
\begin{eqnarray}
\int\f\gamma\frac 1zdz&=&\int_{\sigma\f 1\ef *+\sigma\f 2}\frac 1zdz=\int_{\sigma\f 1\ef *+\sigma\f 2\ef *}\frac 1zdz
\end{eqnarray}

ネイピー 「今回は $ \sigma\f 1\ef *+\sigma\f 2\ef * $ が計算しやすい経路,円周 $ C $ に変形させておきました.あとはこれを料理するだけです.」

サイン 「料理してみます.この円周に沿って積分すればいいから…えーとパラメーターは… $ C(t)=2e^{it}\; (0\leq t\leq 2\pi ) $ ぐらいにしておけば…
\begin{eqnarray}
\int\f\gamma \frac 1zdz&=&\int_{\sigma\f 1\ef *+\sigma\f 2\ef *}\frac 1zdz=\int_C\frac 1zdz\\
&=&\int\f 0\etwo 2\pi \frac{1}{2e^{it}}(2e^{it})’dt\\
&=&\int\f 0\etwo 2\pi \frac{1}{2e^{it}}(2ie^{it})dt\\
&=&\int\f 0\etwo 2\pi idt\\
&=&2\pi i
\end{eqnarray}
できた! $ 2\pi i $ だ!計算しやすい.」

コサイン 「なるほど…積分が端点にしか依存しない領域に限定して,曲線を変えちゃえば,計算しやすい経路に変えられるのか…」

ネイピー 「これによって $ f(z)=1/z $ の周回積分の特性はほぼ特定されますね. $ f $ の特異点である $ z=0 $ を回らない経路での積分は $ 0 $ になり, $ z=0 $ を回る場合は $ 2\pi i $ という値が発生します.」

■ もっと複雑な関数の周回積分計算

ネイピー 「まず…いままで見てきたように『領域 $ U $ 内で周回積分が常に $ 0 $ である』という事実は,様々な言葉で言い表すことができます.証明はしていませんが, $ U $ 内で原始関数が存在するということも周回積分が $ 0 $ であることから示すこともできます.」

ネイピー 「これから登場する定理は,ほとんどが『周回積分』を土台にして記述されているので,こういう言い換えができるということを意識しておくことは重要です.」

\gcos 「周回積分を土台にする理由って何かあるんでしょうか?」

\gexp 「一つは『周回積分』によって数学的な記述が可能にあることが挙げられると思います.『経路による積分値の違い』などのような文言は曖昧な部分が多いですからね.周回積分の値を求めておけば,どのような経路の違いでどれくらい積分値が異なるのかも記述できます.さらに,本質的には周回積分が正則関数の局所的性質とつながっていて,理論の一般化などが見通しやすくなることも挙げられますね.」

\gcos 「なるほど…そうなのですか.」

\gexp 「これからのことも含めると,周回積分の概念の周辺はこのようになっています.」

ネイピー 「この辺は話を進めていかないと,実感が湧かないところだとは思います.周回積分の定理でもっとも基本的な【コーシーの定理】とその使い方の一例をみてみましょう.」

サイン 「よしっ」

ネイピー 「さて,さきほどは $ f(z)=1/z $ という分かりやすい関数が相手でしたから,原始関数の言葉で十分解析が可能でしたね.しかし…例えば $ g(z)=\exp(\exp z)/z^2 $ のような関数だったらどうなるでしょうか.」

サイン 「うーんこれは…」

ネイピー 「この関数 $ g(z) $ の $ z=0 $ を一周する経路での積分を考えようとしたとき, $ f(z)=1/z $ と同じようにするなら, $ g(z) $ の原始関数が存在する領域というものを見つけなければいけません.でも…」

コサイン 「こんな関数の原始関数なんて…想像も付きません…」

ネイピー 「実際,初等関数では記述できないような関数になってしまうでしょう.そうなるとこれ以上,直接的に原始関数の言葉で議論を進めることができなくなってしまいます.」

サイン 「確かに…そうですね…どうするべきでしょう….」

ネイピー 「実は原始関数が存在するかどうかまったくわからないような関数に対しても,『周回積分が常に $ 0 $ になる領域』を決めることはできます.それに関する定理が『コーシーの定理』です.ちょっとみてみましょう.」

サイン 「おお…このコーシーの定理は $ f(z) $ が正則であることしか条件にないんですね.ということは…原始関数が分からなくても大丈夫だ…」

ネイピー 「ただ,領域 $ U $ の形は円板形に限定されています.それによって重大な問題が発生するようなことはありませんけどね.」

コサイン 「これを使えば,さっきの $ \exp(\exp z)/z^2 $ みたいな関数の積分もできるようになるんでしょうか?」

ネイピー 「もちろん計算できます.実際にやってみましょう.」

ネイピー 「では次のような積分経路を考え,これに沿って

\begin{eqnarray}
g(z)=\frac{\exp(\exp z)}{z^2}
\end{eqnarray}
を積分してみましょう.」

サイン 「大変そうだ…」

ネイピー 「少し計算は要しますね.まずはコーシーの定理を使って,積分経路を変形していきましょう.」

コサイン 「 $ f(z)=1/z $ のときの要領は通じないんですよね.」

ネイピー 「基本的な流れは一緒です.積分領域が端点にしか依存しないような領域内で積分の経路を変更していきます.まず $ g(z)=\exp(\exp z)/z^2 $ は $ z=0 $ を除いた領域で正則になっています.ですから少なくとも,このような円板領域 $ U\f 1 $ で $ g(z) $ は正則ですね.」

コサイン 「そうですね…円板領域で $ g $ が正則…ということは $ U\f 1 $ でコーシーの定理が使える…?」

ネイピー 「そういうことになります. $ U\f 1 $ 内ではコーシーの定理から
\begin{eqnarray}
\forall\gamma:U\f 1\; 上の閉曲線\quad \oint\f\gamma g(z)dz=0
\end{eqnarray}
です.言い換えると $ U\f 1 $ 上では $ g(z) $ の線積分は端点にしか依存せず,経路は何でもいいことになります.」

サイン 「ということは $ U\f 1 $ の中で,経路を自由に変形できる!」

ネイピー 「イエス!今回も最終的な経路が円周となるように変形していきましょう.まず $ g(z)=\exp(\exp z)/z^2 $ は $ \com\setminus 0 $ 上で正則なので,少なくとも $ z=0 $ を含まないような円板上では正則になります.このような円板上で積分経路は自由に変形できるわけです.」

ネイピー 「この後の流れはなんとなく想像できると思います.」

コサイン 「他に変形したい箇所があったら…その部分にコーシーの定理を使って経路を変形すればいいと…ってことは…」

サイン 「順番に少しずつ変形していけばいいんだ.」

コサイン 「これで最終的に円周になりました.」

ネイピー 「そうですね.これで

となりましたから,後は円周 $ C $ のパラメーター表示を一つ与えて積分計算です.」

サイン 「よーし! $ C(t)=2e^{it}\; (0\leq t\leq 2\pi ) $ とすれば,これは円周を描くから…これに沿って $ g(z) $ を積分すれば…」
\begin{eqnarray}
\int\f\gamma f(z)dz&=&\int\f Cf(z)dz=\int\f 0\etwo 2\pi f(2e^{it})(2e^{it})’dt\\
&=&\int\f 0\etwo 2\pi \frac{\exp(\exp (2e^{it}))}{(2e\etwo it)^2}(2ie\etwo it)dt\\
&=&i\int\f 0\etwo 2\pi \frac{\exp(\exp (2e^{it}))}{2e\etwo it}dt
\end{eqnarray}
サイン 「えーと…これは直接積分できそうにないから…実部と虚部に分けて…

サイン 「あれ…」

コサイン 「これ…計算できるの…?」

ネイピー 「直接計算しようとすると結構大変…というより実質無理ですね.」

サイン 「せっかく経路を円周に変形できたのに…どうすればいいんでしょう.」

ネイピー 「ここで少し技を使います.この技はのちのち,留数定理というものにも通じます. $ g(z) $ は経路が簡単になったとは言え,このままでは積分計算ができませんから,最後にもう一度コーシーの定理を使うんです.」

サイン 「最後にもうひと押し…!?」

ネイピー 「そうです.ただ $ \exp(\exp z)/z^2 $ は $ z=0 $ で正則ではありませんから直接コーシーの定理を使うことはできません.しかし $ \exp(\exp z)/z^2 $ から $ z=0 $ の『発散する部分』を引き算した関数

は $ z=0 $ での値を $ \tilde g(0)=e $ とすることで全複素平面で正則になってくれます.少なくとも次のような円板 $ U $ 上で正則になってくれるわけです.」

サイン 「つまり…この $ \tilde g(z) $ にならコーシーの定理が使える…」

ネイピー 「そうです.実際に適用すると
\begin{eqnarray}
&&\int\f C\tilde g(z)dz=0\\
&&\int\f C\braces{\frac{\exp(\exp z)}{z^2}-\paren{\frac{e}{z^2}+\frac{e}{z}}}dz=0\\
&&\int\f C\frac{\exp(\exp z)}{z^2}dz=\int\f C\paren{\frac{e}{z^2}+\frac{e}{z}}dz
\end{eqnarray}
となりますね.」

サイン 「つまり最終的に,一番最初の $ \int\f\gamma g(z)dz $ は
\begin{eqnarray}
\int\f C\paren{\frac{e}{z^2}+\frac{e}{z}}dz
\end{eqnarray}
を計算すれば出てくるってことか…やってみます.」
\begin{eqnarray}
\int\f\gamma g(z)dz&=&\int\f C\paren{\frac{e}{z^2}+\frac{e}{z}}dz=\int\f 0\etwo 2\pi \paren{\frac{e}{(e\etwo it)\ef 2}+\frac{e}{e\etwo it}}(ie^{it})dt\\
&=&ie\int\f 0\etwo 2\pi \paren{e\ethr -it+e}dt\\
&=&ie\left[ \frac{1}{-i}e^{-it}+t\right]\f 0\etwo 2\pi\\
&=&2\pi ei
\end{eqnarray}
サイン 「出たぁ!」

コサイン 「すごいやり方ですね.でも途中で $ g(z) $ の発散部を引き算するという操作がありましたが,発散部ってどうやって求めているんですか?」

ネイピー 「理論的に厳密な話はおいておくとして, $ \exp(\exp z))/z^2 $ のような関数は,分子を『テイラー展開』することで…
\begin{eqnarray}
\frac{\exp(\exp z)}{z^2}=\frac{e}{z^2}+\frac{e}{z}+e+\frac 56ez+\frac 58ez^2+\cdots
\end{eqnarray}
という形にすることができます.このとき前半部分にあるのが発散部分,後半が正則部分です.」

ネイピー 「今回定義した $ \tilde g(z) $ というのは,この後半の正則部分に当たるものですね.」

コサイン 「なるほど…」

ネイピー 「こんなふうに,何かしら
\begin{eqnarray}
\frac{a}{(z-\alpha)^n}+\frac{b}{(z-\alpha)\ethr n-1}+\cdots +\frac{c}{(z-\alpha)}
\end{eqnarray}
という項を何度か引き算することで大域的に正則にできるような関数のクラスは『有理型関数』と呼ばれるものになっています.」

サイン 「有理型…」

ネイピー 「複素ガンマ関数やゼータ関数等もこの有理型関数というものになっているんですよ.これらを解析するために周回積分の理論を詰めることは大事になってきます.」

ネイピー 「次回は,この内容をもう少し掘り下げて,『コーシーの積分公式』の話をすることにしましょう.できたらチェインや留数定理の話もしてみたいですね.」

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