post

【ますかる f – 複素解析編 – 第2節】 複素関数の積分

ネイピー 「実関数のときは微分が解析の主な手段になっていましたが,
複素関数のときは線積分がそれを担います.関数 $ f:\rea\to\rea $ の積分はある区間 $ [a,b] $ に対して行われるものでした.
\[
\int_{[a,b]}f(x)dx
\]
これは直線に沿って $ f(x) $ の1次元的な値を足し合わせるものです.これに対して,複素関数の場合,定義域は2次元分ありますから今度は直線だけではなく,曲線に沿った積分というものを考えます.」

サイン 「曲線って,複素平面上をうねうねしてるやつのことですよね.これに沿って積分なんてどうやって….」

ネイピー 「まず,曲線とは何か,ということをちゃんと言っておかないといけませんね.普通,複素平面上の曲線といったら, $ \com $ 上を走る『曲がった線』を思い浮かべると思います.」

コサイン 「はい.曲線は複素平面の『1次元の部分集合』のことだと思います.」

ネイピー 「そのように定義することも,もちろん可能なのですが,複素関数論で『曲線』という言葉がでたら,正確には $ \com $ の部分集合のことではありません.」

サイン 「本当ですか…『複素平面上の曲線』は複素平面の一部ではない…?」

ネイピー 「そう言ってしまうと少し語弊がありますね….まずは定義を述べてしまいます.複素関数論で扱う『曲線』とは,実数上の区間 $ [a,b] $ から $ \com $ への連続関数のこととします.」

サイン 「『曲線』を関数として定義している…?」

ネイピー 「そうです. 『曲線』とは実数から複素数への『関数』のことです. 『 $ \gamma $ を $ \com $ 上の曲線とする』という言葉がでたら, $ \gamma $ は実数上のある区間 $ [a,b] $ から $ \com $ への連続関数 $ \gamma :[a,b]\to\com $ のことであるという意味になります.」

サイン 「曲線って関数だったのか.じゃあ,複素平面の上に描かれるやつっていったい….」

ネイピー 「よくある曲線の図は,その関数が描く図形のことです.つまり曲線 $ \gamma :[a,b]\to\com $ が与えられたら,それに伴って $ \com $ の部分集合
\[
\gamma ([a,b])=\jb{\gamma (t)\vl t\in [a,b]}\subset\com
\]
が定義できます.私たちが目にする『曲線』は,正確にはこれだったんです.」

ネイピー 「2次関数みたいな曲線や,円周も,それぞれ $ \gamma(t)=t+it^2 $ , $ \gamma (t)=e^{it} $ という関数を表しています.」

コサイン 「たまに,曲線だけ描いてポツンと $ \gamma $ とだけ書かれている図もあるんですが…」

ネイピー 「分野によって『曲線』の定義はいろいろあるんですが,複素関数の話でそのような図が出てきたのなら, $ \gamma $ は実数区間から $ \com $ への連続関数のことであるということを表す図だと思うといいでしょう.」

サイン 「曲線にひっついてる矢印みたいなのはなんです?」

ネイピー 「これは曲線の『向き』を表すものです.曲線は実数区間からの連続関数のことですから,同じ曲線の図でも,それが表す関数が違うということが起こりえます.例えば
\[
\gamma\f 1:[0,1]\to \rea,\quad \gamma\f 1(t)=t+it^2\\
\gamma\f 2:[0,1]\to \rea,\quad \gamma\f 2(t)=t^4+it^8\\
\gamma\f 3:[0,1]\to\rea,\quad \gamma\f 3(t)=(1-t)+i(1-t)^2\\
\]
これらは連続関数としてはどれも違うものですが,これらが描く曲線はどれも同じです.」

コサイン 「確かに…曲線の『像』は全部同じだ…これだとどの関数なのか区別がつかない….」

ネイピー 「そう.曲線の上に文字を書くだけでは,関数の形は区別することができません.そこで,曲線の上に矢印をつけることで,パラメーター $ t $ の増加方向への変化によって,曲線がどの方向に動くかだけは記述することができます.」

コサイン 「なるほど…これで曲線がパラメーターに対してどう動くのかは記述できるわけですね….それでも,先程の例で言えば, $ \gamma\f 1 $ と $ \gamma\f 2 $ の区別はできないのでは….」

ネイピー 「曲線上で線積分の値に直接影響を与えるのは,曲線の向きなんです.2つの曲線 $ \gamma\f 1 $ と $ \gamma\f 2 $ が同じ図形を描き,かつ曲線の向きが一緒なら,それぞれ別々の $ t $ の関数で与えられていたとしても,線積分の値には影響を及ぼさないんです.これを『線積分の値は曲線のパラメーターの付け方に依存しない』なんて言い方をしたりします.」

サイン 「そうかぁ…だから曲線の向きだけしか描かなくてもいいんだ.」

ネイピー 「そういうことですね.さて,曲線のことが少しわかったところで,線積分を定義してみましょう.まずは,一番簡単な実軸に沿った曲線の積分です.これはそのまま積分するだけという感じです.」

サイン 「なるほど…そうなると,こんどは虚軸に沿った積分をしてみたくなります.」

ネイピー 「やってみましょう.虚軸に沿った積分はこんな感じです.」

コサイン 「こんどは, $ dz $ が $ idt $ になってますね.」

ネイピー 「 $ dz $ は $ z $ の変化を捉えるものですからね. $ z $ が虚軸を
動きますから, $ t $ の微小変化 $ dt $ に対して $ z $ は $ idt $ だけ変化するというわけです.」

サイン 「なるほど…曲線によって $ dz $ の形がいろいろと変化するわけですか.」

ネイピー 「そういうことです.一般に $ z $ が曲線 $ \gamma $ を動く場合, $ dz $ は $ \gamma ‘(t)dt $ になります.」

コサイン 「 $ \gamma ‘(t) $ というのは $ \gamma(t) $ を $ t $ で微分したものですよね?」

ネイピー 「そのとおりです. $ \gamma ‘(t) $ というのは,点 $ t $ における曲線の変化具合を表す量になっています.例えば, $ \gamma (t)=t+it^2 $ という曲線に沿った積分はこうなります.」

サイン 「結構積分の計算が難しくなってきますね…特に $ e^{iz} $ の積分…実関数だったら
\[
\int\f 0\ef 2e^{ax}dx=\left[\frac{e^{ax}}{a}\right]^2\f 0=\frac{e^{2a}-1}{a}
\]
みたいに計算できるのに….どうにかして簡単に計算できないんでしょうか.」

コサイン 「複素数のときは似たようなことが成り立たないのかな?」

サイン 「というと?」

コサイン 「例えば
\[
\int\f\gamma e^{iz}dz=\left[\frac{1}{i}e^{iz}\right]\f\gamma
\]
みたいな計算ができないかなって思って… $ [\ ]\f\gamma $ っていう記号は勝手に作っちゃってるけど…」

ネイピー 「いいところまでいってますね.そもそも実関数でやってた $ \int\f 0\ef 2e^{ax}dx=[e^{ax}/a]\f 0\ef 2 $ みたいな計算は何をしているのか考え直してみると,括弧 $ [\ ] $ の中に現れる関数は,いわゆる $ e^{ax} $ の原始関数です.」

サイン 「原始関数ってたしかあれですね.あれ.あの,あれ.」

ネイピー 「あれですよ.ここでいう『 $ f(x) $ の原始関数』は導関数が $ f(x) $ となるような関数,つまり $ F'(x)=f(x) $ を
満たすような関数としましょう.この言葉を使って,定積分の式を言葉で言えば, $ f(x) $ の原始関数を $ F(x) $ とすると
\[
\int\f a\ef bf(x)dx=\left[ F(x) \right]\f a\ef b=F(b)-F(a)
\]
が成り立つと言えます.実は複素関数についても同じようなことが成り立ちます.」

コサイン 「ということは…でもさっきの $ \left[ F(z) \right]\f\gamma $ みたいな記号の使い方は流石にだめですよね.」

ネイピー 「その記号の意味をしっかり定義できれば大丈夫ですが,いまはそういうのは使わないことにしましょう.複素関数に対して,定積分を言葉にするとこうなります.ある複素数上の領域 $ U $ で, $ f(z) $ の正則な原始関数 $ F(z) $ が存在すれば,つまり $ F'(z)=f(z) $ となるような正則関数 $ F(z) $ が存在すれば,
\[
\int\f\gamma f(z)dz=F(\beta )-F(\alpha )
\]
が成り立ちます.ここで $ \gamma $ は $ U $ の中の曲線,つまり連続関数 $ \gamma :[a,b]\to U $ で, $ \alpha $ と $ \beta $ は $ \gamma $ が始まる点と終わる点です.」

サイン 「おお…実関数のときとほとんどおんなじだ.」

ネイピー 「ここで, $ F'(z)=f(z) $ を満たすような $ F $ は正則じゃないといけないということに注意してください.少し例をあげると, $ f\f 1(z)=e^z $ や $ f\f 2(z)=z^n\; (n\geq 1) $ ,あるいは $ f\f 3(z)=e^{(a+ib)z},\; f\f 4(z)=\cos(\sin z) $ などの原始関数はそれぞれ $ \com $ 上で,
\[
F\f 1(z)=e^z,\\
F\f 2(z)=\frac{z\ethr n+1}{n+1}\\
F\f 3(z)=(a+ib)e^{(a+ib)}\\
F\f 4(z)=-\sin(\sin z)\cdot \cos z
\]
となって,すべてCR関係式 $ \partial F\f j/\partial x=-i\partial F\f j/\partial y $ を満たすので $ \com $ 上の正則関数です.なので, $ f\f j(z) $ の線積分は,すべて曲線の端っこの点の位置だけで決まってしまいます.」

サイン 「確かに…全部曲線の端っこの点だけで決まってる.そもそも
\[
\int\f\gamma f(z)dz=F(\beta )-F(\alpha )
\]
この数式の右辺って, $ \gamma $ の端点情報しか使ってない….」

コサイン 「つまり,複素関数の線積分は $ \gamma $ がどんな形状をしていたとしても,端っこの点さえ同じなら,全部同じ答えになってしまうということですか.」

ネイピー 「あくまで,正則な原始関数が存在するという条件下でそうなりますね.」

コサイン 「少し不思議な気もしますね…」

ネイピー 「そうですねぇ….ちなみに先程の $ \int\f\gamma f(z)dz=F(\beta )-F(\alpha) $ という数式は,言葉だけで『 $ f $ の正則な原始関数が存在すれば,その線積分は曲線の端点だけで決まる』と表現されます.」

サイン 「端点だけで積分値が決まらない関数もあるんですよね?」

ネイピー 「もちろんです.正則な原始関数が存在しなければ積分値が決まらない場合もありえます.例えば $ f(z)=1/z $ などです.」

サイン 「それって, $ (\log z)’=1/z $ では…?」

ネイピー 「実関数ではそうです.ですが,複素関数では違いますよ.」

サイン 「あら…そうか.たしか複素関数では $ \Log z $ だったな….」

ネイピー 「ちょっと $ \Log z $ の正則性と導関数をちょっと調べてみましょうか.」

コサイン 「そうですね.まず,そもそも $ \Log $ の定義はたしか,
\[
\Log z=\log\abs z+i\Arg z
\]
だったから…これを実部と虚部で表すと…
\[
\Log(x+iy)=\log\sqrt{x^2+y^2}+i\Arg(x+iy)
\]
少し $ \Arg $ の部分がくせものだな…」

ネイピー 「 $ \Arg $ の部分は座標から角度を得るような関数なので, $ \arctan $ で表すことができますが,少し場合分けが難しいです.0以上の実数部分を除いた領域では,
\[
\Arg(x+iy)=2\arctan\paren{\frac{y}{\sqrt{x^2+y^2}+x}}
\]
という表示式があります.」

コサイン 「そんな表示が…ということは, $ \Log z $ は $ 0 $ 以上の実数を取らない領域だと,
\[
\Log z=\log\sqrt{x^2+y^2}+2i\arctan{\frac y{\sqrt{x^2+y^2}+x}}
\]
になる.ちょっと骨が折れるけど…微分してみる…」
\[
\bibunp{\Log z}{x}=\frac{x}{x^2+y^2}-i\frac{y}{x^2+y^2}=\frac{1}{x+iy}=\frac 1z\\
\bibunp{\Log z}{y}=\frac{y}{x^2+y^2}+i\frac{x}{x^2+y^2}=\frac{i}{x+iy}=\frac{i}{z}
\]
サイン 「出た….ちゃんとCR関係式 $ \dis\bibunp{\Log z}{x}=i\bibunp{\Log z}{y} $ を満たしてるから, $ \Log z $ は正則だ.そして
\[
\bibun{\Log z}{z}=\bibunp{\Log z}{x}=-i\bibunp{\Log z}{y}=\frac 1z
\]
だ.これで, $ f(z)=1/z $ には正則な原始関数 $ \Log z $ が存在することがわかりました!あら,結局仮定の条件を満たしているから, $ f(z)=1/z $ の積分は曲線の端点だけで決まってしまうということでは….」

ネイピー 「原始関数がわかりましたね.ですがあくまで,『正の実軸を除いた領域で』 $ 1/z $ の正則な原始関数 $ \Log z $ が存在するということです.つまり,いまわかったことは,少なくとも正の実軸除去領域内の曲線に対して,積分値が端点だけで決まるというだけです.」


コサイン 「うーん…ということは正の実軸を通ってしまうような曲線に対しては,成り立たない…ということになりますね.」

ネイピー 「そのとおりです.実際に正の実軸を通る経路での $ 1/z $ の積分は,通らない経路での積分に比べて $ 2\pi i $ だけ変化します.」


サイン 「 $ 2\pi i $ ってのは結構唐突に出てきた値ですね…」

ネイピー 「そんなこともありません.なぜなら,複素対数関数のときに話したように, $ \log z $ は $ z=0 $ を一周すると $ 2\pi i $ 分の値の違いが生じます.この $ \log z $ の『多価性』,つまり一つの値に複数の値が対応するという性質が,積分値に影響を及ぼしていると考えることもできるでしょう.」

コサイン 「なるほど…そういうことだったんですね.」

ネイピー 「このように,端点だけでは積分値が決まらないような関数は他にもいろいろとあります.
そのような関数の『端点情報だけからの積分値の決まらなさ』,もしくは『経路の違いによる積分値の変化』
というものに関する定理たちが複素関数論の中核をなしているんです.」

サイン 「中核を…!? でもパッと見,積分値がどれくらい変化するかの情報を見たところで…それに
何か重大な意味があるんですかね? 計算には役立つとは思いますが,複素関数の中心に立つような研究題材には…」

ネイピー 「ここまでの話からは想像できないかもしれませんが,実は関数 $ f(z) $ の経路の違いによる積分値の変化具合というのは, $ f(z) $ の局所情報を反映したものになっているんです.一例を挙げてみます.
\[
\frac{f(z)}{(z-\alpha)^{n+1}}
\]
という関数の,点 $ z=\alpha $ をまたぐ経路の違いによる積分値の変化値は, $ f(z) $ の $ n $ 階導関数の $ z=\alpha $ での値になっているんです.」

サイン 「ほぇ~…これすごいですね…」

コサイン 「経路でどれくらい違うか積分計算するだけで, $ n $ 階導関数の値が分かる…不思議だ…」

ネイピー 「これはコーシーの積分公式と呼ばれるものの結果ですが,こういったことが積分の変化値を見ることで
分かるんです.さらにはこういったことを調べていくと,最終的には正則関数というクラスの性質まで分かってくるんです.線積分が複素関数論の中核をなしている理由が分かってくるでしょう.」

サイン 「たしかに…」

ネイピー 「さて,『経路による積分値の違い』という言葉をもう少し数学的に見る必要がありますが,それは『周回積分』という言葉を使って翻訳することができます.これからその話をしていきましょう.」

ネイピー 「ちなみに補足ですが, $ f(z)=1/z $ の原始関数が正則になる領域は $ \com $ から正の実軸を除いた領域だけではなく,ほかにもいろいろありえます.」

ネイピー 「何度も言うように,このような領域内に限って,線積分が端点にしか依存しないという状態が発生します..」

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です